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介護のICT化は失敗する?|つまずく5つのパターンと導入前チェックリスト15項目

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ICTの日常利用は75.4%まで進みました。しかし負担軽減の効果を実感できている事業所は、昼49.4%・夜44.6%。「入れた」と「効いた」のあいだには、はっきりした溝があります。何がその差を生むのかを公表データと国のガイドラインで整理し、導入前に自分で確かめられる15項目のチェックリストにしました。

「高いシステムを入れたのに、結局みんな紙に戻った」——介護の現場で、この話は珍しくありません。そして多くの場合、原因は「選んだ製品が悪かった」ことではありません。

この記事では、ICT化がつまずく5つのパターンを整理し、そのそれぞれに対応する導入前チェックリスト15項目を用意しました。すでに「使われないシステム」を抱えている事業所向けに、立て直しの順番も書いています。数値は厚生労働省・公益財団法人介護労働安定センターの公表データに基づき、出典を明記しています。

関連する記事はAXラボ(介護×AIの研究室)でまとめています。

結論:失敗の多くは「製品選び」ではなく「入れ方」で起きている

先に結論です。うまくいかなかった事業所の話を聞いていくと、詰まっている場所は製品の機能ではなく、導入の進め方と、導入後の運用に集中しています。

具体的には——現場に一度も触らせずに決めた/既存ソフトへの入力が残って二重入力になった/機能が多すぎて「どれを使うか」が決まっていない/担当者1人に依存した/効果を測っていないので、続ける理由も直す手がかりもない。この5つです。

逆に言えば、これらは製品を選ぶ前に、事業所側で潰しておけます。それがこの記事の目的です。

数字で見る「入れた」と「効いた」の溝

公益財団法人介護労働安定センターの「令和6年度介護労働実態調査」では、ケア記録・ケアプラン等の入力・保存・転記の機能を日常的に利用している事業所は75.4%。導入そのものは、着実に広がっています。

ところが、ICT機器・介護ロボットを導入しても「昼間の業務負担の軽減」に効果を感じている事業所は49.4%、「夜間」は44.6%(同調査)。4分の3が入れているのに、効いたと感じているのは約半数——これが令和6年の姿です。

背景には事業所そのものの厳しさもあります。従業員が「不足」と感じる事業所は65.2%(前年度64.7%)、「今の報酬では十分な賃金を払えない」は約39.1%(同調査)。人も原資も足りないなかで、効かない投資を繰り返す余裕はありません。

つまずく5つのパターン

パターン① 現場に一度も触らせずに決めた

経営層や本部だけで比較検討し、実際に毎日使う人が導入前に一度も触っていないケースです。導入後に「前のほうが早い」「押す場所が分からない」という声が出て、そこから巻き返すのは、決める前に触ってもらうより何倍も大変になります。

選定の段階でいちばんITが苦手な職員に触ってもらうのが、いちばん確実な検査になります。その人が使えるなら、他の人はまず使えます。

パターン② 二重入力が残った

最も多い失敗です。新しいツールを入れても、請求や記録のために既存の介護ソフトへ入力する作業が残る。すると純粋に作業が1工程増えます。「ICTを入れたら忙しくなった」という感想は、たいていここから生まれます。

確認すべきは「連携できます」という言葉ではなく、「どの画面のどの項目が、どの操作で、どちらの向きに渡るのか」という具体です。片方向なのか双方向なのか、手作業のCSV書き出しが挟まるのかどうかで、現場の負担はまったく変わります。

パターン③ 機能が多すぎて、使う機能が決まっていない

高機能なものを選んだこと自体は失敗ではありません。問題は、「うちはこの機能を使う」という合意がないまま配られることです。マニュアルが分厚くなり、研修も一度きり。結果として、誰も全体像を持たないまま日常が始まります。

導入初月に使う機能を1つか2つに絞って明文化するだけで、定着率は変わります。残りは3か月目以降でも遅くありません。

パターン④ 担当者1人に依存した

ITに強い職員が1人で導入を回し、その人が異動・退職した瞬間に止まる、というパターンです。運用ルールがその人の頭の中にしかないため、引き継げません。

手順書を1枚つくること、そして「聞く相手が2人以上いる」状態をつくることが、いちばん安いリスク対策になります。国のガイドラインでも「手順書の作成」は業務改善の取組の1つとして挙げられています。

パターン⑤ 効果を測っていない

導入前の記録1件あたりの所要時間を測っていないため、導入後に楽になったかどうかを誰も証明できない。すると、続ける理由も、どこを直せばいいかの手がかりも失われます。反対する人を説得する材料も出てきません。

必要なのは大げさな測定ではありません。導入前に、代表的な記録3件分の所要時間をストップウォッチで測っておく。それだけで、あとから比べられるようになります。

国は「入れたか」ではなく「成果が出たか」を見ている

この流れは、国の制度設計にもはっきり表れています。令和6年度介護報酬改定で新設された生産性向上推進体制加算では、見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入し、国の「生産性向上に資するガイドライン」に沿った業務改善を継続し、事業年度ごとに取組の実績データを厚生労働省に報告することが求められます(加算(Ⅱ)は一月あたり10単位。テクノロジーを複数導入し、報告データで成果が確認された場合には、より高い評価として加算(Ⅰ)が設定されています)。

あわせて、利用者の安全と職員の負担軽減を検討する委員会の設置(おおむね3か月に1回以上の開催)も求められています。「入れて終わり」ではなく「成果を報告する」ところまでが要件になっている、ということです。

要件の詳細・単位数は改定や自治体運用により変わります。算定の可否は、必ず告示・通知の原典と貴事業所の登録内容をご確認ください。

国のガイドラインでは、ICTは「7つの取組」のうちの1つ

見落とされがちですが、厚生労働省の生産性向上ポータルサイトでは、業務改善の視点から整理した取組として、次の7つが示されています。

  1. 職場環境の整備
  2. 業務の明確化と役割分担
  3. 手順書の作成
  4. 記録・報告様式の工夫
  5. 情報共有の工夫
  6. OJTの仕組みづくり
  7. 理念・行動指針の徹底

ICTツールが直接効くのは、主に「記録・報告様式の工夫」と「情報共有の工夫」です。逆に言えば、業務の役割分担が曖昧なまま、手順書もないままシステムだけを入れても、残りの5つは何も解決しません。「ICTを入れたのに変わらない」の正体は、しばしばここにあります。

導入前チェックリスト15項目

5つのパターンに対応する形で並べました。右の列(確認のしかた)だけ持ち帰って使っていただけます。すべてを満たす必要はありませんが、空欄が多い項目ほど、そこが後で詰まります。

# 確認項目 確認のしかた
1 毎日使う職員が、契約前に実機を触ったか デモは管理者だけで受けない。現場から2人同席してもらう
2 いちばんITが苦手な職員が使えたか その人に、説明なしで1件つくってもらう
3 自分のスマホ・タブレットで動くか 事務所のPCではなく、実際に持ち歩く端末で試す
4 既存の介護ソフトへの入力が減るか、増えるか 導入後の1日の流れを、紙に書き出して比べる
5 連携が「どの項目・どの向き・どの操作」か言えるか 営業担当に画面を見せてもらいながら口頭で説明させる
6 CSVの手作業書き出しが挟まらないか 「全自動ですか、手作業が1回入りますか」と直接聞く
7 初月に使う機能を1〜2個に絞って書き出したか 紙1枚に書いて、全員が見える場所に貼る
8 使わないと決めた機能を明示したか 「今は触らない」リストをつくる
9 手順書が1枚あるか 導入初週に、使った人自身に書いてもらう
10 聞ける相手が事業所内に2人以上いるか 最初から2人で始める(1人担当制にしない)
11 ベンダーの問い合わせ窓口と応答時間を確認したか 電話かチャットか、平日何時までかを書面で
12 導入前の所要時間を測ったか 代表的な記録3件を、ストップウォッチで計測
13 4週間後に見る指標を1つ決めたか 「記録1件あたりの時間」など、1つでよい
14 やめる条件を決めたか 「4週間で楽にならなければ止める」と先に決める
15 個人情報の扱い(伏字・保存先・削除)を確認したか 口頭ではなく書面で3点を確認する

もう「使われないシステム」になっている事業所へ——立て直しの順番

すでに導入してしまい、使われていない場合。いきなり全部を作り直そうとすると、たいてい二度目の失敗になります。順番があります。

  1. 使われている機能を1つ探す。ゼロということはまずありません。そこが足場になります。
  2. 二重入力が起きている箇所を特定する。1日の流れを紙に書き出せば、たいてい1〜2箇所に集中しています。
  3. その1箇所だけを解消する。全体最適はいったん忘れます。
  4. 楽になったことを数字で示す。ここで初めて、他の職員が動きます。
  5. 使わない機能を正式に「使わない」と決める。捨てることで、残ったものが使われ始めます。

この「小さく始めて、続ける」進め方については介護のDXが進まない本当の理由介護のDXからAXへでも詳しく整理しています。

お金の話——補助金だけで製品を決めない

介護テクノロジー導入支援事業やデジタル化・AI導入補助金など、導入費用を軽くする制度は複数あります。補助率・上限額・締切・対象経費は自治体ごとに異なります。詳しくは介護テクノロジー補助金の解説ICT導入支援事業とはデジタル化・AI導入補助金補助金ナビをご覧ください。

ただし一点だけ。「補助対象だから」を選定理由の1位に置くと、上のチェックリストの1〜3が飛びます。補助金は費用を軽くする手段であって、現場で使えるかどうかの証明ではありません。使うかどうかを決めるのは現場、支払いを軽くするのが補助金、という順番を崩さないことをおすすめします。

自事業所の現在地を確かめる

立て直しの前に、いまどこにいるのかを確かめておくと遠回りが減ります。無料の「AX診断」では、事業所名または所在地から検索するだけで、厚生労働省「介護サービス情報公表システム」の公表データをもとに現在地を表示します。登録も入力も不要です。

AX診断(無料)で自事業所のAX(AI活用)度を見る

出典:厚生労働省ウェブサイト(介護サービス情報公表システム オープンデータ)/公共データ利用規約(第1.0版)。本ツールは上記を当社が編集・加工したものであり、厚生労働省の公式見解ではありません。診断結果は公表情報にもとづく整理であり、個別の判定・助言を行うものではありません。詳細は各事業所にてご確認ください。

導入を進めるときの実務注意

ICT・AIの導入や、記録を外部サービスに渡す運用にあたっては、利用者の氏名・被保険者番号などの個人情報の扱い(伏字・事業所内ルールの確認)にご留意ください。制度の要件・単位数・様式は、改定や自治体運用により変わります。加算の算定や補助の可否は、必ず告示・通知・自治体の実施要綱の原典と、貴事業所の登録内容をご確認ください。本記事は特定の製品・サービスの効果や算定を保証するものではありません。

よくある質問(FAQ)

介護のICT化が失敗する最大の原因は何ですか?

最も多いのは、新しいツールを入れても既存の介護ソフトへの入力が残り、二重入力になってしまうことです。純粋に作業が1工程増えるため、「ICTを入れたら忙しくなった」という結果になります。契約前に「どの項目が・どの向きに・どの操作で渡るのか」を具体的に確認してください。

ICTを導入したのに使われていません。どうすればいいですか?

全部を作り直そうとせず、順番に進めてください。まず使われている機能を1つ探し、次に二重入力が起きている箇所を1つ特定して、そこだけを解消します。楽になったことを数字で示せると、他の職員が動き始めます。

導入前に測っておくべきことはありますか?

代表的な記録3件分の所要時間を、ストップウォッチで測っておいてください。導入前の数字がないと、楽になったかどうかを証明できず、続ける理由も直す手がかりも失われます。

生産性向上推進体制加算とは何ですか?

令和6年度介護報酬改定で新設された加算です。テクノロジーの導入と、国のガイドラインに沿った業務改善の継続、そして事業年度ごとの実績データの報告が求められます。加算(Ⅱ)は一月あたり10単位、成果が確認された場合はより高い加算(Ⅰ)が設定されています。要件は原典をご確認ください。

国のガイドラインが示す業務改善の取組は何ですか?

厚生労働省の生産性向上ポータルサイトでは、職場環境の整備、業務の明確化と役割分担、手順書の作成、記録・報告様式の工夫、情報共有の工夫、OJTの仕組みづくり、理念・行動指針の徹底という7つが示されています。ICTツールが直接効くのは主に4番目と5番目です。

補助金が使える製品を選べばいいですか?

補助金は費用を軽くする手段であって、現場で使えるかどうかの証明ではありません。使うかどうかは現場が実機を触って決め、補助金は支払いを軽くするために使う、という順番をおすすめします。補助率・上限・締切は自治体ごとに異なります。

出典

出典:厚生労働省ウェブサイト/公益財団法人介護労働安定センター/公共データ利用規約(第1.0版)。本ページは上記を当社が編集・加工したものであり、各府省庁・調査機関の公式見解ではありません。割合は各調査の公表時点のものであり、調査年度や集計方法により変わります。「5つのパターン」「チェックリスト」「立て直しの順番」は当社の現場知見に基づく整理であり、効果や結果を保証するものではありません。要件・単位数・数値は原典をご確認ください。

関連記事

よくある失敗と、その前に打てる手

失敗の大半は導入の前に決めていなかったことから生まれます。

失敗 なぜ起きるか その前に打てる手
導入したが使われない 使う人が決めていない 対象の作業と担当者を先に決める
紙と併用のまま やめる期日がない 紙をやめる日を決めてから始める
二重入力が増えた 連携の範囲を確認していない 何が流れて何が流れないかを事前に確かめる
人によって使い方が違う 手順書がない 手順を1つにして文書にする
効果を説明できない 導入前を測っていない 導入を決めた日に測る
現場が止まった 一斉に配った 数名で試し、教える人を先に育てる
項目が多くて終わらない 必須項目を絞っていない 入力の必須を最小にする
端末が足りない 台数を見積もっていない 同時に使う人数から逆算する
圏外で入力できない 通信環境を確認していない 電波がなくても入力できるかを確認する
質問できる人がいない 窓口を決めていない 事業所内の担当と、事業者の窓口を決める
補助金が下りなかった 交付決定前に契約した 見積までにとどめる
翌年に止まった 次年度の費用を見ていない 初年度のみの補助かを確認する
管理者が紙で確認している 確認の方法が変わっていない 画面で確認する運用にする
データを取り出せない 解約時の取り扱いを確認していない 契約前に確認する

始める前のチェック

確認 できているか
置き換える作業を1つに絞った
その作業の担当者が合意している
導入前の作業時間を測った
紙をやめる期日を決めた
手順書の担当を決めた
質問の窓口を決めた
端末の台数を確認した
通信環境を確認した
次年度以降の費用を試算した
解約時のデータの扱いを確認した

進め方は介護のDX・AX、二重入力は二重入力をなくす方法をご覧ください。

止まったときの立て直し方

状況 立て直し方
誰も使っていない 対象の作業を1つに戻し、数名で再開する
一部の人だけ使っている 使っている人のやり方を手順書にする
紙に戻った 戻った理由を聞く。多くは入力の場所か項目数
入力が遅れている 必須項目を減らす
効果が見えない 導入前の数字がなければ、いまから測り直す
質問が事業者に届いていない 窓口と連絡方法を掲示する
管理者が把握していない 週1回、使用状況を見る時間を置く
契約の更新が近い いまの使い方で続けるかを、数字で判断する

分野別|厚労省の報告書からの改善事例(出典つき)

実在する事業所が報告した168件の改善事例を、分野ごとに整理した記事です。現場で挙がった課題・取り組んだこと・結果・出典を1行にまとめており、Excel/CSVで持ち帰れます効果の記載がない事例は「記載なし」とそのまま示しています。

分野 事例数 よく挙がる課題
記録業務 50件 二重入力、清書、転記、記録の遅れ
情報共有・申し送り 50件 申し送りが長い、ノートが複数、伝わっていない
シフト・移乗・見守り・教育ほか 68件 シフト作成、移乗の負担、夜間の見守り、新人教育、排泄・入浴

選ぶ段階での確認事項は介護ソフトの選び方に、契約前に必ず聞くこと14項目としてまとめています。

この記事の執筆・編集

介護のマナ編集部(株式会社ライフシフト)

介護記録AI「神マナ(介護のマナ)」を開発・提供する株式会社ライフシフトの編集部。訪問看護ステーションを運営する看護師(CSO)をはじめ、介護・看護の現場とともに、記録・書類・制度の実務情報を発信しています。

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