介護記録AI「神マナ」無償提供のお知らせ

第三十六話 最後の言葉を、書きとめた

ウタさんは、その夜、しきりに、娘さんの話を、していた。

八十八歳。容体が、よくない、と聞いていた。私は、ボランティアだけど、その日は、遅くまで、ウタさんのそばに、いさせてもらった。ウタさんは、私の手を握って、ぽつり、ぽつり、と、話した。「うちの娘はね、忙しい子なの。なかなか、来られない。でも、それでいいの。あの子が、自分の人生を、ちゃんと、生きてる証拠だから」。そう言って、笑った。私は、その言葉を、忘れたくなくて、日記の、はしっこに、書きとめた。

ウタさんは、明け方、静かに、息を、引き取った。娘さんが、駆けつけたときには、もう、間に合わなかった。娘さんは、冷たくなった、お母さんの手を握って、泣いていた。「最期の言葉も、聞けなかった……親不孝で、ごめんね」。

私は、迷った。出過ぎたこと、かもしれない。でも、勇気を出して、娘さんに、声を、かけた。「あの……差し出がましいんですが。お母さま、昨日の夜、こんなこと、おっしゃっていました」。そう言って、書きとめた、その一行を、見せた。娘さんは、それを読んで、その場に、くずおれて、泣いた。聞けなかったはずの、最期の言葉を。何の資格もない、ボランティアの小娘が、たった一人、聞いて、書きとめて、いたのだ。

数日後、お礼の手紙が、えんがわに、届いた。「母の、最後の声を、届けてくれて、ありがとう」。私は、その手紙を、日記に、はさんだ。いちばん、大切なページに。

「神マナ物語」は、小規模多機能ホーム「えんがわ」に通う、ボランティアの学生・神崎まなの物語です。 → 登場人物と舞台について(はじめに)

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