介護記録AI「神マナ」無償提供のお知らせ

第三十五話 はじめて、人を、見送った日

タカさんは、いつも、私の手を、握ってくれる、おばあさんだった。

九十六歳。もう、ほとんど、しゃべれない。それでも、私が、そばに行くと、しわだらけの手を、伸ばして、私の手を、にぎる。私が、えんがわで、いちばん、好きな時間だった。

その日、私が、お昼すぎに、部屋へ行くと、タカさんの呼吸が、いつもと、ちがった。ゆっくりと、間遠に、なっていた。私は、こわくなって、桐山主任を、呼んだ。主任は、タカさんの様子を、しばらく、見て、それから、静かに、言った。「まなちゃん。手を、握っていてあげて。──それが、いちばん、大事なことだから」。私は、タカさんの手を、握った。「タカさん」。返事は、ない。それでも、話しかけた。「いい、お天気ですよ。桜が、もうすぐ、咲きそうです」。

タカさんは、最後に、ふうっと、長い息を、ひとつ、吐いた。それから、静かに、なった。私は、泣かなかった。ただ、握った手が、まだ、あたたかいことが、ふしぎだった。人は、こんなに、静かに、いなくなるのか。

その夜、私は、日記に、書いた。うまく、書けなかった。涙で、字が、にじんだ。それでも、一行だけ、はっきりと、書いた。「タカさんを、ひとりに、しなかった」。それが、私の、初めての“仕事”だった。

「神マナ物語」は、小規模多機能ホーム「えんがわ」に通う、ボランティアの学生・神崎まなの物語です。 → 登場人物と舞台について(はじめに)

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