介護記録AI「神マナ」無償提供のお知らせ

第三十三話 もう、来るのを、やめようと思った日

もう、来るのを、やめよう。そう、思っていた。

ボランティアを始めて、半年。私は、何の役にも、立っていなかった。お茶はこぼす。名前は覚えられない。気のきいたことも、言えない。プロの職員さんの、足を引っぱっているだけだ。私なんか、いない方が、いいんじゃないか。──その日、私は、もう来ないつもりで、えんがわに、行った。

その日、私が、付き添ったのは、寝たきりの、ハツさん。もう、言葉も、ほとんど、出ない。私は、ただ、ベッドの横に、座って、その手を、拭いていた。心は、もう、ここに、なかった。

拭き終えて、立ち上がろうとしたとき。ハツさんの、しわだらけの手が、私の手を、そっと、握った。力なんて、ほとんど、入っていない。でも、たしかに、握っていた。ハツさんは、こちらを見て、口を、かすかに、動かした。声には、ならなかった。でも、その口の形は、たしかに、「あ・り・が・と」と、言っていた。

私は、その場に、座りこんで、しまった。何の役にも、立っていない、と思っていた。でも、ハツさんは、私が“いる”ことに、ありがとうと、言ってくれた。

その日、私は、やめなかった。今も、えんがわに、通っている。ハツさんの、あの手の、軽さを、まだ、私の手が、覚えているから。

「神マナ物語」は、小規模多機能ホーム「えんがわ」に通う、ボランティアの学生・神崎まなの物語です。 → 登場人物と舞台について(はじめに)

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