事故を防ぐうえで欠かせないのが、ヒヤリハットの記録です。「報告すると怒られそう」「書き方が分からない」といった理由で埋もれがちですが、ここに事故防止の最大のヒントがあります。本記事では、ヒヤリハット報告書の書き方を例文つきで整理します。
ヒヤリハットとは
ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの「ヒヤリ」「ハッと」した出来事のことです。ハインリッヒの法則では、1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故、300件のヒヤリハットがあるとされます。ヒヤリハットを集めて対策することが、重大事故を防ぐ近道です。
報告書に書く項目
- 発生した日時・場所
- 対象となった利用者さま
- どんな状況だったか(事実)
- なぜ起きたか(要因)
- そのときの対応
- 再発防止のための改善策
書き方のポイント
- 個人を責めない――「誰のミスか」ではなく「なぜ起きたか(しくみ)」に目を向けます。
- 事実を具体的に――時刻・場所・行動を客観的に書きます。
- 要因を掘り下げる――「なぜ」を繰り返し、背景にある原因を探ります。
記入例
転倒のヒヤリハット
午前10時頃、居室で立ち上がろうとした際にバランスを崩し、ベッド柵につかまって転倒は回避。床に新聞が置かれており、足を滑らせかけた。床の物を片付け、立ち上がり時の見守りを徹底することとした。
誤薬のヒヤリハット
配薬時、別の利用者の薬を手に取りかけたが、名前の確認で気づき、誤薬には至らなかった。配薬時はトレーの氏名を声に出して確認する手順を再徹底する。
再発防止に活かす
集めたヒヤリハットは、職員間で共有し、原因と対策を話し合うことで初めて意味を持ちます。記録を「報告して終わり」にせず、改善のサイクルにつなげましょう。
記録・共有の負担を軽くする
介護記録AI「神マナ(介護のマナ)」は、音声から記録の下書きを自動で作成し、職員間での情報共有もスムーズにします。気づいたその場で残せるため、ヒヤリハットを埋もれさせません。利用者さま3名まで、期限なく無料でお試しいただけます。
ヒヤリハット報告書の記入例
ヒヤリハット報告書は、事故に至らなかった「ヒヤリ」を記録し、再発を防ぐものです。記入例をまとめました。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 発生状況 | 移乗の際、車いすのブレーキをかけ忘れ、ずれそうになった。 |
| 要因 | 確認不足、慌ただしい時間帯。 |
| 対応 | すぐに支え、けがはなし。 |
| 再発防止 | 移乗前の指差し確認を徹底し、手順を共有する。 |
ヒヤリハットと事故報告の違い
| ヒヤリハット | 事故報告 | |
|---|---|---|
| 対象 | 事故に至らなかった出来事 | 実際に起きた事故 |
| 目的 | 事故を未然に防ぐ | 事実の記録、原因分析、再発防止、行政への報告 |
| 提出先 | 事業所内 | 事業所内+市区町村(基準による)+家族 |
| 書く人 | 気づいた人 | 関わった職員 |
| 扱い | 責任追及の材料にしない | 原因を分析する |
| 件数 | 多いほうがよい | 少ないほうがよい |
⚠ヒヤリハットの件数が少ない事業所は、安全な事業所ではありません。報告されていないだけのことが多くあります。
ヒヤリハットの記入例
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 発生日時 | 令和8年7月15日 10:20頃 |
| 発生場所 | 2階廊下(トイレ前) |
| 対象者 | A様(要介護3、右片麻痺) |
| 状況 | トイレへ向かう途中、廊下の敷物のふちに右足がかかり、身体がが傾いた。近くにいた職員が支え、転倒には至らなかった |
| 要因 | 敷物のふちがめくれていた。本人は右足の挙上が不十分 |
| とった対応 | 敷物を撤去。本人に痛みの有無を確認(訴えなし) |
| 再発防止 | 廊下の敷物をすべて確認し、めくれのあるものを撤去。朝の環境チェック項目に追加 |
| 報告先 | 管理者(10:30)、看護師(10:35) |
報告が集まる事業所にするために
- 報告した人を責めない——ここが崩れると報告は止まります
- 様式を短くする——A4半分で足りる形にします
- その場で書ける場所に置く
- 集計して共有する——「出しても何も変わらない」と思われると出なくなります
- 改善につながった例を伝える——報告の価値が実感できます
分析のしかた
- 時間帯で集計する——特定の時間に集中していないか(食事前、夜間、送迎時)
- 場所で集計する——同じ場所で繰り返していないか
- 対象者で集計する——同じ方に集中していないか
- 種類で集計する——転倒、誤薬、誤嚥、離設
- 人ではなく仕組みを見る——「注意する」で終わらせない
分析から改善へ
- 集める——短い様式で、その場で書ける形に
- 分類する——時間帯、場所、対象者、種類
- 傾向を見る——集中しているところを探します
- 要因を掘る——「注意不足」で止めない。環境、手順、人員配置を見ます
- 対策を決める——誰が、いつまでに、何をするか
- 共有する——決めた対策と、その後の変化を全員へ
- 検証する——同じことが減ったかを確認します
「注意する」で終わらせない
| よくある結論 | 掘り下げた対策 |
|---|---|
| 職員が注意する | 敷物を撤去する/手すりを設置する |
| 声かけを徹底する | 声かけのタイミングを手順に組み込む |
| 確認を徹底する | 確認の方法を変える(声出し、ダブルチェック、チェックリスト) |
| 本人に説明する | 本人が理解しやすい形に環境を変える |
| 人を増やす | その時間帯の業務を減らす/配置を組み替える |
個人の努力に依存する対策は、忙しくなると必ず崩れます。環境と手順で解ける部分を先に探してください。
よくある疑問
| よくある疑問 | 考え方 |
|---|---|
| どこからが事故か | けが・受診の有無が目安ですが、基準は事業所で定めます |
| 家族に伝えるべきか | ヒヤリハットの段階でも、状況によっては伝えます。判断の基準を決めておきます |
| 報告が集まらない | 責めない文化と、短い様式が前提です。件数が少ないのは安全の証明にはなりません |
| 個人名を書くか | 対象者は記載します。職員名は事業所の方針によりますが、責任追及に使わないことが前提です |
| 保存期間は | 事故報告と同様に、長めに保存する事業所が多くあります |
様式に入れる項目
- 発生日時(時刻まで)
- 発生場所(具体的に)
- 対象者
- 状況(事実のみ)
- 要因(推測が入る場合は、推測と分かるように)
- とった対応
- 再発防止の案
- 報告先と報告時刻
- 記載者
件数の目安
件数が少ないことは、安全の証明にはなりません。報告しやすい事業所ほど件数は増えます。
- 月の件数を記録し、推移を見る
- 急に減った月は、報告が止まっている可能性を疑う
- 職員別の報告数を見る(責めるためではなく、報告しにくい人がいないか)
- 事故に至った件数と、ヒヤリの件数の比率を見る
よくある質問(FAQ)
ヒヤリハットとは?
何のために書きますか?
書き方のコツは?
カイポケを使っていないのですが、どうすればよいですか?
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場面別|ヒヤリハット報告の文例
ヒヤリハットは「至らなかった」ことを書くものです。事実と、なぜ至らなかったかを残します。
| 場面 | 報告の文例 |
|---|---|
| 転倒しかけた | 10時15分、居室からトイレへ向かう際、廊下でふらつかれ、壁に手をついて止まる。介助者が0.5m後方におり、接触はなし。床に水滴あり。 |
| ベッドからの転落 | 2時の巡回時、ベッド柵の外側に右足が出ている状態を発見。柵が1本外れていた。本人に外傷なし。 |
| 誤薬 | 朝食後薬を配薬時、同姓の利用者のケースを手に取る。手渡す前に名前を照合し、誤りに気づく。内服には至らず。 |
| 誤嚥 | 昼食のみそ汁でむせ込み。咳嗽で喀出され、経皮的動脈血酸素飽和度は97%を維持。とろみの追加で以後むせなし。 |
| やけど | 入浴前に湯温を確認したところ43度。本人は未入浴。湯温計の設置場所を変更。 |
| 離設 | 15時、玄関の自動ドア付近に立たれているところを職員が発見。外には出ていない。開錠の時間帯であった。 |
| 無断外出のおそれ | 面会者の退出時に一緒に出ようとされる。職員が声をかけ、居室へ戻られる。 |
| 薬の飲み忘れ | 夕食後、テーブルに薬包が残っているのを発見。本人は「飲んだ」と話されるが未内服。看護師へ報告。 |
| 移乗時のひやり | 車いすへの移乗時、ブレーキが片側かかっておらず車いすが動く。介助者が支え、転倒には至らず。 |
| 送迎車での事故 | 送迎車の乗降時、ステップに足がかかりバランスを崩す。運転手が支える。 |
| 食札の間違い | 配膳時、きざみ食の方に常食が配られていることに、食事開始前に気づく。 |
| 入浴中の体調変化 | 入浴中に「気分が悪い」と訴えあり。すぐに退浴介助。血圧98/60。臥床にて休まれ、20分後に改善。 |
| 個人情報 | FAXの送信先を誤り、送信直前に気づいて中止。宛先の登録名が類似していた。 |
| 機器の不具合 | エアマットの送気が停止しているのを発見。電源プラグが抜けていた。皮膚に発赤なし。 |
| 感染対策 | 嘔吐物の処理時、手袋の交換を忘れかけたが、他職員の声かけで気づく。 |
| 身体拘束のおそれ | 車いすのベルトを、本人の同意なく装着しようとしたが、装着前に気づいて中止。 |
要因別|ヒヤリハットの分析と対策の文例
ヒヤリハットは「至らなかった理由」を書くのが要点です。何が働いて事故にならなかったのかが分かると、その仕組みを他の場面にも広げられます。
| 要因 | なぜ起きたか | 変えたこと |
|---|---|---|
| 人(確認不足) | 配薬時に氏名を照合していなかった | 手渡す直前に、本人と一緒に名前を読み上げる手順にした |
| 人(思い込み) | いつも自立している方だと思い込み、見守りをしなかった | その日の状態で判断するよう、朝の申し送りで共有 |
| 人(経験不足) | 新人が移乗の手順を知らなかった | 移乗の手順を写真つきで掲示し、初回は同行する |
| 人(急いでいた) | 送迎の時間に追われ、ブレーキを確認しなかった | 出発前の確認項目を声に出す運用にした |
| 物(設備) | 浴室の床が濡れて滑りやすかった | 入浴のたびに床を拭き、滑り止めマットを追加 |
| 物(用具) | 歩行器のブレーキの効きが弱かった | 月1回の点検表を作り、事業者へ調整を依頼 |
| 物(配置) | ベッドとポータブルトイレの距離が遠かった | 距離を30cm縮め、動線に物を置かない |
| 物(照明) | 夜間の廊下が暗かった | センサーライトを2か所設置 |
| 手順(決まっていない) | おむつ交換後の体位が人によって違った | 体位変換の順番を表にして掲示 |
| 手順(守られていない) | 2人介助の対象者を1人で介助した | 対象者の一覧を作り、居室に印を貼った |
| 手順(伝わっていない) | 食形態の変更が全員に伝わっていなかった | 変更は申し送りノートと端末の両方に記載する |
| 環境(時間帯) | 夕方に事故が集中していた | 16時台の職員配置を1名増やした |
| 環境(場所) | 同じ場所で3回起きていた | その場所の動線を見直し、手すりを追加 |
| 環境(音) | ナースコールが聞こえにくかった | 音量を上げ、通知先を増やした |
| 本人(体調) | 薬の変更後にふらつきが増えた | 主治医へ報告し、変更後1週間は見守りを強化 |
| 本人(意欲) | 自分でやりたい気持ちが強く、無理をされた | できる範囲を本人と一緒に確認し、声かけの言い方を統一 |
| 本人(認知) | ナースコールの使い方を忘れてしまう | 見える位置に置き、押し方を毎回一緒に確認 |
| 連携(家族) | 自宅での状況が伝わっていなかった | 連絡帳に「ご家庭でのご様子」欄を追加 |
| 連携(他事業所) | 通所での変化が訪問側に伝わっていなかった | ケアマネジャー経由で月1回、情報を共有 |
| 連携(医療) | 服薬の変更を把握していなかった | 受診後にお薬手帳を確認する手順にした |
集計して見えること
| 集計の切り口 | 見えること |
|---|---|
| 時間帯別 | 人手が薄い時間帯が分かる |
| 場所別 | 同じ場所で繰り返していないか |
| 利用者別 | 特定の方に集中していないか |
| 職員の経験年数別 | 教育でカバーできる部分か |
| 要因別(人・物・手順・環境) | どこに手を打つと効くか |
| 曜日別 | 特定の曜日の体制に偏りがないか |
| 内容別(転倒・誤薬・誤嚥等) | 優先して対策する種類 |
| 報告した職員別 | 報告しやすい雰囲気があるか |
| 事故に至った割合 | ヒヤリハットと事故の比率 |
| 対策後の再発 | 打った手が効いているか |
この記事の執筆・編集
介護のマナ編集部(株式会社ライフシフト)
介護記録AI「神マナ(介護のマナ)」を開発・提供する株式会社ライフシフトの編集部。訪問看護ステーションを運営する看護師(CSO)をはじめ、介護・看護の現場とともに、記録・書類・制度の実務情報を発信しています。
