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第十七話 なぜ、彼は、同じ話を、何度もするのか

カネダさんは、同じ話を、何度もする。

九十三歳。決まって、戦争の話。東京が焼けた、あの晩の話。職員さんは、もう、何十回と、聞いている。私も、はじめは、相づちだけ、打っていた。

ある雨の日。ほかに、誰もいなくて、私は、カネダさんの前に、ただ、座っていた。いつもの話が、始まった。逃げた。火の中を、走った。──そこで、カネダさんは、急に、黙った。いつもは、この前で、話が、終わっていた。「……あのとき、手を、放しちまったんだ」。小さな声だった。「隣を走ってた、友だちの手をな。放さなきゃ、二人とも、死んだ。だから、放した」。カネダさんの目から、涙が、こぼれた。九十三歳の涙を、私は、初めて、見た。

わかった。カネダさんは、自慢話を、していたんじゃない。七十年、あの手の感触を、放せずに、いたのだ。何度も話していたのは、たぶん、たった一度でいい、誰かに、「あんたは、悪くない」と、言ってほしかったから。

次に、その話が、火の場面に、さしかかったとき。私は、そっと、カネダさんの手を、握った。何の資格もない、十九の小娘の、手だ。それでも、カネダさんは、今度は、黙らなかった。握った手を、握り返して、最後まで、話した。

「神マナ物語」は、小規模多機能ホーム「えんがわ」に通う、ボランティアの学生・神崎まなの物語です。 → 登場人物と舞台について(はじめに)

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