介護記録は、ケアの根拠であり、事故や監査の際の大切な証拠にもなります。だからこそ「書いてはいけない書き方」があります。よくあるNG例と、その改善ポイントを整理します。
なぜ記録のNGが問題になるのか
介護記録は公的な記録であり、事故が起きたときの事実確認や、実地指導・監査の対象になります。あいまいな記録や主観的な記録は、事業所と利用者の双方を守れなくなる恐れがあります。
やってはいけない書き方(NG例)
- 主観・憶測で書く――「機嫌が悪そう」ではなく、観察した事実で書く。
- あいまいな表現――「いつもどおり」「特変なし」だけで済ませない。
- 決めつけ・不適切な表現――利用者を否定する言葉や差別的な表現は使わない。
- 事実と推測の混在――事実と、看護・介護者の判断を分けて書く。
- 後追いのまとめ書き――時間が経ってからまとめて書くと正確さが落ちる。
- 修正液で消す――誤記は二重線と訂正で残し、消さない。
改善のポイント
- 観察した客観的事実を、数値や具体的な様子で書く。
- 5W1Hを意識する(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうした)。
- 本人の発言は「 」でそのまま残す。
- できるだけその場・当日に記録する。
記録のNGが「事故の証拠」になる場面
記録は、ふだんは誰も読みません。読まれるのは事故が起きたときと運営指導のときです。そのときに記録が弱いと、実際に良いケアをしていても示せません。
| 起きたこと | 弱い記録だと | 残っていると |
|---|---|---|
| 転倒 | 「ベッドから転落」だけ。前後の状況が不明 | 直前の様子、発見時の体位、環境、報告した相手と時刻が追える |
| 誤薬 | 「間違えて服薬」 | どの薬を、いつ、誰が、どう気づき、どう対応したか |
| 家族からの申し立て | 記載が「変わりなし」の連続 | 日々の状態変化と、家族へ伝えた内容が残っている |
| 体調急変 | 時刻が「午前中」 | 発見時刻、バイタル、連絡した時刻、指示内容 |
個人情報の観点でのNG
- 他の利用者の実名を書く——「Bさんと口論」ではなく「他の利用者との間でトラブル」と書き、詳細は別の記録に分けます
- 家族の内情を必要以上に書く——支援に必要な範囲を超えた記載は、開示請求時に問題になります
- 診断名の推測を書く——「認知症が進んだ」ではなく、観察した事実を書きます
- 職員の私見や感情——「困った人」「わがまま」といった評価語は残しません
転記とコピペのNG
電子記録が広がって増えたのが、前回の記録をコピーして日付だけ変える書き方です。効率的に見えますが、訪問した事実の裏づけとしては最も弱い記録になります。
- 毎回同じ文章が並ぶ——実際に見ていないと疑われます
- 前の利用者の内容が混ざる——重大な事故につながります
- テンプレートの項目が埋まっていない——形だけ整えた記録に見えます
- 事後にまとめて書く——時刻の整合が取れなくなります
書き換えの型(悪い例→良い例)
| 悪い例 | なぜ弱いか | 良い例 |
|---|---|---|
| 変わりなし | 何を見たかが残らない | 血圧128/76、体温36.4℃。食事は全量摂取。歩行時のふらつきなし |
| 機嫌が悪い | 評価語で、事実ではない | 「今日は入りたくない」と2回発言。入浴を後半に変更したところ応じられた |
| 指導した | 内容も反応も不明 | 水分は1日1リットルを目安にとお伝えした。「そんなに飲めない」との返答。まずはコップ1杯増やすことで合意 |
| 家族対応 | 誰と何を話したか不明 | 長女(同居)へ、夜間のトイレ時にふらつきがある旨を伝達。手すりの設置をケアマネへ相談することとした |
※本記事は制度の一般的な考え方を整理したものです。給付や算定の可否は保険者(市区町村)の判断によります。最新の告示・通知と保険者の運用をご確認ください。
やってはいけない書き方 追加例
| NGの記載 | なぜ問題か | 書き換え |
|---|---|---|
| 「暴力を振るう」 | 原因や状況が分からず、本人像だけが悪く残る | 入浴の声かけの際に手を払う動作あり。声かけを変え、時間を空けたところ応じられた |
| 「徘徊」 | 目的のない歩き回りと決めつけている | 15時ごろ玄関へ向かい「家に帰る」と発言。以前の勤め先の話をされた |
| 「不穏」 | 何が起きたか分からない | 落ち着かず室内を往復。テレビの音量を下げると座って過ごされた |
| 「拒否」 | 本人に非があるように読める | 「今日はやめておく」との発言。理由をうかがうと「体がだるい」とのこと |
| 「様子観察」だけ | 何を観察したか不明 | 食事量、排泄の回数、歩行時のふらつきを確認。いずれも前日と同様 |
| 「家族が非協力的」 | 評価語。事実ではない | 長女へ3回連絡したが応答なし。留守番電話にメッセージを残した |
記録のNGについてよくある質問
| よくある疑問 | 考え方 |
|---|---|
| ボールペンでないとだめか | 消えるペンや鉛筆は避けます。改ざんを疑われる余地を残さないためです |
| 書き間違えた | 二重線と訂正印です。修正液・塗りつぶしは使いません |
| あとから思い出したことを足したい | 追記であることと、追記した日付が分かるように書きます |
| 他の職員の分を代筆した | 代筆した事実と、誰の情報かを明記します。無記名の代筆は避けます |
| 電子記録なら訂正は自由か | いつ誰が編集したかの履歴が残る仕組みであることが前提です |
| 略語を使ってよいか | 事業所内で用語集を決め、本人・家族が読む書類では避けます |
記録はいつ読まれるのか——3つの場面
| 場面 | 読む人 | 見られるところ |
|---|---|---|
| 運営指導・監査 | 行政の担当者 | 計画との整合、記載者、時刻、保存期間 |
| 事故・苦情のあと | 家族、保険者、場合によっては司法 | 事故前後の状況、報告した相手と時刻、日々の変化 |
| 担当者会議・引き継ぎ | 他職種、後任の職員 | 何をしてきたか、何が効いたか、何がだめだったか |
ふだん誰も読まない書類だからこそ、読まれるときには必ず「困っている状況」です。そのときに事業所を守るのは、日々の1行です。
保存期間の考え方
- 介護保険の記録は、原則として完結の日から2年間の保存が求められます
- ただし都道府県・市区町村の条例で5年とされている場合があります。自事業所の所在地の定めをご確認ください
- 事故に関する記録は、より長く保存しておくほうが安全です
- 電子化する場合も、保存期間中は閲覧・出力できる状態を保ちます
- 廃棄するときは、個人情報が復元できない方法で行い、廃棄した記録を残します
NGを防ぐ仕組みをつくる
介護記録AI「神マナ(介護のマナ)」の記録機能(施設記録マナ)は、音声やメモから客観的な記録の下書きを作成します。書き方のばらつきや主観的な表現を減らし、記録の質をそろえられます。利用者さま3名まで、期限なく無料でお試しいただけます。
介護記録のNG例と改善(良い例・悪い例)
介護記録でやってしまいがちなNG例と、その改善例をまとめました。
よくある質問(FAQ)
介護記録でやってはいけないことは?
良い記録のポイントは?
記録は後から直してよいですか?
カイポケを使っていないのですが、どうすればよいですか?
避けたい書き方と、言い換え(拡張版)
記録はあとから読む人が、その場を思い浮かべられるかで判断します。
| 避けたい書き方 | なぜ問題か | 言い換え |
|---|---|---|
| 「様子観察」 | 何を見たか分からない | 「歩行時のふらつきの有無を確認。ふらつきなし」 |
| 「異常なし」 | 何を確かめたかが不明 | 「発赤・腫脹・熱感なし」 |
| 「対応した」 | 何をしたか不明 | 「臥床を促し、10分後に再度訪室」 |
| 「声かけした」 | 内容が不明 | 「『お茶を飲みませんか』と声をかける」 |
| 「本人の希望により」 | 希望の内容が不明 | 「『今日は入りたくない』と話される」 |
| 「介助にて実施」 | どの程度か不明 | 「立位保持のみ介助。洗身は自立」 |
| 「多い/少ない」 | 基準が不明 | 「水分摂取 800mL(前日1,200mL)」 |
| 「時々」 | 頻度が不明 | 「1時間に2回」 |
| 「〜と思われる」だけ | 根拠がない | 「顔をしかめており、痛みがあると考えられる」 |
| 「認知症のため」 | 原因の決めつけ | 「同じ質問を3回繰り返される」 |
| 「危険なので制止した」 | 拘束にあたる可能性 | 「立ち上がられたため、隣に座り話しかける」 |
| 「家族に連絡した」 | 誰に、何を、が不明 | 「長女へ電話。発熱と受診の予定を伝える」 |
| 「後日対応」 | いつか不明 | 「4月12日の訪問時に確認する」 |
| 「本人拒否のため中止」 | 評価語 | 「『今日はやめておく』と話されたため中止」 |
| 略語・造語 | 伝わらない | 正式な語で書く |
| 推測だけの記載 | 事実と区別がつかない | 見たこと・聞いたことを先に書く |
直すときの手順
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | その文で「誰が読んでも同じ絵が浮かぶか」を確かめる |
| 2 | 評価語(拒否・不穏・問題行動)を、行動の記述に置き換える |
| 3 | 量・回数・時間を数字にする |
| 4 | 本人の言葉は「 」でそのまま書く |
| 5 | 判断を書くときは、その根拠になった事実を先に書く |
| 6 | 行った援助と、その結果を書く |
| 7 | 誰に何を報告したかを書く |
| 8 | 次に確かめることを書く |
基本は介護記録の書き方、SOAPはSOAPの書き方をご覧ください。
記法から見直す場合はフォーカスチャーティングが参考になります。「したこと」で終わらず「その結果どうなったか」まで書く形が決まっています。
記録は保存期間中に見返されることを前提に書きます。年限は介護記録の保存期間と個人情報の扱いをご覧ください。
この記事の執筆・編集
介護のマナ編集部(株式会社ライフシフト)
介護記録AI「神マナ(介護のマナ)」を開発・提供する株式会社ライフシフトの編集部。訪問看護ステーションを運営する看護師(CSO)をはじめ、介護・看護の現場とともに、記録・書類・制度の実務情報を発信しています。
