介護記録AI「神マナ」無償提供のお知らせ

第二十二話 入れ歯を、隠す人のわけ

ゲンさんは、しょっちゅう、入れ歯を、隠す。

八十五歳。食事のあと、入れ歯が、見つからない。みんなで、大捜索になる。植木鉢の中。靴の中。一度は、冷蔵庫の、卵のケースに、きれいに、並んでいた。「ゲンさん、また!」。私たちは、毎度、振り回された。ゲンさんは、いたずらがばれた子どものような顔で、ごまかし笑いを、するのだった。

ある日、桐山主任が、わけを、教えてくれた。ゲンさんは、入れ歯のない自分の顔を、奥さんに、見られるのが、いやだったのだ。月に一度の、奥さんの面会の前。決まって、入れ歯は、行方不明に、なった。歯のない、しわくちゃの口元を、最愛の人にだけは、見せたくない。八十五歳の、見栄だった。

それから私は、奥さんが来る日は、こっそり、ゲンさんに、耳打ちするようになった。「ゲンさん。今日、奥さん、来ますよ。いい男で、いきましょうね」。ゲンさんは、にっと笑って、自分から、入れ歯を、はめた。

今日も、ゲンさんの入れ歯は、定位置に、おさまっている。──奥さんの、来ない日は。

「神マナ物語」は、小規模多機能ホーム「えんがわ」に通う、ボランティアの学生・神崎まなの物語です。 → 登場人物と舞台について(はじめに)

最近の記事