訪問看護ステーションは、利用者が急増する一方で廃止・休止も過去最多という厳しい環境にあります。この記事では、訪問看護に特化した「黒字化と収支のポイント」を、人件費・加算・生産性の観点から整理します。介護事業所全般の運営は介護事業所の運営・経営ガイドもご覧ください。
あわせて、訪問看護AIとは?導入前に確認すべきこともご覧ください。
訪問看護経営の特徴──労働集約で人件費率が高い
訪問看護は、看護師が訪問した分だけ収入になる労働集約型のビジネスです。1回の訪問で得られる報酬はおよそ8,500円前後、そして人件費率は売上の約78%にもなります。つまり「看護師一人あたりの生産性」と「単価(加算)」が、そのまま経営を左右します。
黒字化の考え方(損益分岐)
黒字化は、ざっくり次の式で考えられます。
利用者数 × 訪問頻度 × 単価(基本+加算) − 人件費 + 固定費
- 売上を上げる――利用者・訪問件数を増やす/取れる加算をもれなく取る。
- コストを抑える――一人あたりの訪問数(稼働率)を上げ、記録・移動の非効率=残業を減らす。
人員基準は看護職員が常勤換算2.5人以上。5人未満の小規模が過半数を占めますが、小規模でも黒字化は可能です。
収支を改善する3つのレバー
1. 加算をもれなく取り、単価を上げる
訪問看護の加算一覧のうち、ターミナルケア加算・特別管理加算・緊急時訪問看護加算・機能強化型などは収益インパクトが大きい項目です。算定要件は記録に紐づくため、要件を満たせなくなる原因は「記録の不備」であることが多いとされています。
2. 生産性=記録の効率化(人件費を下げる直接レバー)
人件費率78%の世界では、残業の削減がそのまま利益になります。訪問後の記録・事務に時間を取られると、一人あたりの訪問数が伸びず、残業代も膨らみます。記録を効率化すれば、同じ人数で訪問数を増やし、残業を減らせます。詳しくは訪問看護の残業を減らす方法へ。
3. 人材の定着(採れない時代の生命線)
看護師は構造的な不足下にあり、採用で穴を埋めるのは困難です。今いる看護師を辞めさせないことが、最も確実な経営安定策です。→訪問看護師の離職を防ぐ。
記録の負担を、音声AIで軽くする
訪問看護向けのAI「訪問看護AI「訪問看護マナ」」は、記録書Ⅱ・報告書・計画書を話すだけでSOAP作成し、カイポケへ自動転記します。記録残業の削減=人件費の圧縮+訪問数増に直結。利用者3名まで無期限無料で試せます。
まとめ
- 訪問看護経営は人件費率78%。生産性と加算単価が勝負。
- 黒字化=加算をもれなく取り、記録・移動の非効率(残業)を削り、人を辞めさせない。
- 記録の効率化は、収支改善の最短レバー。
訪問看護の収支は「訪問件数×単価−人件費」で決まる
構造が単純なぶん、どこが崩れているかも特定しやすいのが訪問看護の経営です。
| 要素 | 見るところ | 崩れているときの兆候 |
|---|---|---|
| 訪問件数 | 1人あたりの1日訪問件数 | 看護師は雇ったが件数が伸びない |
| 単価 | 医療保険と介護保険の比率、加算の取得状況 | 件数はあるが売上が伸びない |
| 人件費 | 人件費率 | 件数は伸びたが利益が残らない |
| 移動時間 | 1件あたりの移動時間 | 訪問エリアが広がりすぎている |
| 稼働率 | 看護師の稼働している時間の割合 | 会議・記録・待機に時間を取られている |
立ち上げ期の資金繰り——入金は約2か月後
介護報酬・診療報酬は、サービスを提供した月の翌月に請求し、入金はさらに翌月です。つまり4月に訪問した分の入金は6月。この間も家賃と人件費は出ていきます。
- 開設から最初の入金まで、2〜3か月分の運転資金が要ります
- 人件費は訪問件数に先行します(採用してから利用者が増える)
- 返戻・査定があると入金がさらにずれます。初回請求は特に確認が要ります
- 自己資金だけで組まず、日本政策金融公庫や制度融資を開設前に相談しておく事業所が多くあります
黒字化のために先に決めること
- 訪問エリアを絞る——広げるほど移動時間が増え、1日の件数が落ちます
- 1日の目標訪問件数を決める——移動時間を含めた現実的な数字にします
- 24時間対応をするか決める——収入にも、職員の負担にも直結します
- 主に受ける保険を決める——医療保険中心か介護保険中心かで、営業先も人材も変わります
- 加算の取得計画を立てる——体制要件は直前では整いません
見る数字
- 1人1日あたりの訪問件数
- 人件費率
- 1件あたりの移動時間
- 医療保険と介護保険の比率
- 紹介元別の依頼件数と、断った件数・理由
- 職員1人あたりの月間訪問件数の分散(偏っていないか)
収支計画書をつくるときの考え方
| 項目 | 積み上げ方 |
|---|---|
| 訪問件数 | 看護師数 × 1日あたり訪問件数 × 稼働日数。1日4〜5件から始まる想定が現実的です |
| 単価 | 医療保険・介護保険それぞれの想定件数比率で計算します |
| 加算 | 取得できる体制が整う時期を見込んで、段階的に載せます |
| 人件費 | 看護師の給与+法定福利費。採用は稼働に先行します |
| 家賃・車両 | 事業所家賃、駐車場、車両(リース/購入)、ガソリン |
| その他 | 通信費、システム利用料、消耗品、保険料、広告費 |
⚠初月から満稼働で計算しないことが要点です。利用者が増えるには時間がかかり、その間も人件費は出ます。
立ち上げ期に見る数字
- 新規依頼件数——紹介元別に記録します。どこが効いているか分かります
- 初回訪問までの日数——長いと次の依頼が来なくなります
- 1人1日あたり訪問件数——3件を下回る状態が続くなら、エリアか営業に課題があります
- キャンセル率
- 返戻件数——初回請求は特に確認します
経営について現場から多い質問
| よくある疑問 | 考え方 |
|---|---|
| 何人から黒字になるか | エリアと単価によります。1人1日あたりの訪問件数と人件費率から逆算します |
| 24時間対応は必要か | 収入と負担の両方に直結します。人員が整う前に掲げると特定の職員に集中します |
| エリアはどこまで広げるか | 移動時間が増えると1日の件数が落ちます。件数より移動時間で判断します |
| 理学療法士等を採用すべきか | ニーズと、看護職員による評価の体制が組めるかで判断します |
| 営業は誰がやるか | 管理者が兼務することが多いですが、訪問に入りすぎると営業が止まります |
よくある質問
Q. 訪問看護ステーションの黒字ラインは?
損益分岐は利用者数・訪問件数と人件費で決まります。人件費率が売上の約8割を占めるため、看護師1人あたりの訪問件数(生産性)と、加算取得による単価アップが黒字化の鍵です。
Q. 経営でまず見るべき数字は?
訪問件数、稼働率(1人あたり訪問数)、人件費率、加算の取得状況、記録などの残業時間です。特に人件費率と生産性は経営に直結します。
Q. 小規模でも黒字化できますか?
できます。少人数でも、加算をもれなく取り、記録・移動の非効率を削って一人あたりの訪問数を上げれば収支は改善します。
関連サービス
カイポケを使っていないのですが、どうすればよいですか?
月に一度は見る数字
件数だけを見ると、増やす方向にしか行きません。負担側の数字を並べて見ます。
| 指標 | 計算 | 目安の見方 |
|---|---|---|
| 訪問件数 | 月の訪問回数 | 前月比、前年同月比 |
| 看護師1人あたりの訪問件数 | 訪問件数 ÷ 常勤換算数 | 増減の理由を説明できるか |
| 利用者数 | 月末時点の実利用者 | 新規と終了の内訳 |
| 新規の依頼件数 | 紹介元ごと | どこから来ているか |
| 受けられなかった件数 | 理由ごと | 体制の課題が見える |
| 終了の件数 | 理由ごと(入院・入所・死亡・転居) | — |
| 医療保険と介護保険の割合 | 件数の比 | 報酬の構成が変わる |
| 加算の算定率 | 算定件数 ÷ 対象件数 | 取り漏れではなく、要件の確認 |
| 人件費率 | 人件費 ÷ 売上 | — |
| 残業時間 | 1人あたり | 増えている月の理由 |
| オンコールの出動 | 回数と、担当ごとの偏り | 偏りは離職につながる |
| 移動時間 | 1訪問あたり | 順路の見直しの材料 |
数字が動いたときに見るところ
| 動き | 見るところ |
|---|---|
| 訪問件数が減った | 新規の依頼が減ったのか、終了が増えたのか |
| 新規が減った | 紹介元ごとの件数。訪問の間隔が空いていないか |
| 終了が増えた | 理由の内訳。入院が多いなら状態像の変化 |
| 人件費率が上がった | 採用したばかりか、稼働が下がったか |
| 残業が増えた | 記録か、オンコールか、移動か |
| 加算の算定率が下がった | 要件が変わっていないか、記録が残っているか |
| 受けられない件数が増えた | 人員か、地域か、対応できる処置か |
| 特定の担当に偏っている | 振り分けの基準を見直す |
利用者の確保は訪問看護の利用者確保、定着は訪問看護の定着をご覧ください。
数字を集める場所
| 指標 | どこから取るか |
|---|---|
| 訪問件数 | 請求データ、または訪問記録 |
| 実利用者数 | 月末時点の利用者一覧 |
| 新規・終了 | 受付簿と終了の記録 |
| 紹介元 | 受付簿(紹介元を必ず記録する) |
| 受けられなかった件数 | 断りの記録(理由も残す) |
| 加算の算定件数 | 請求データ |
| 人件費 | 給与台帳 |
| 残業時間 | 勤怠データ |
| オンコールの出動 | 出動の記録 |
| 移動時間 | 訪問の開始・終了時刻の差 |
この記事の執筆・編集
介護のマナ編集部(株式会社ライフシフト)
介護記録AI「神マナ(介護のマナ)」を開発・提供する株式会社ライフシフトの編集部。訪問看護ステーションを運営する看護師(CSO)をはじめ、介護・看護の現場とともに、記録・書類・制度の実務情報を発信しています。
監修:嶺井 美幸(看護師・訪問看護ステーション「訪問看護ようき」代表・株式会社ライフシフトCSO)
