公開日 2026年7月25日 最終更新日 2026年7月26日
デジタル化(DX)は変革の土台。その上でAIが判断・実行まで担うのが「AX」です。効果実感が半数どまりのいま、AXで何がどう変わるのか——効果データ、国の後押し、現場の変化、そして“淘汰されないための進め方”まで、一次情報と現場の知見で整理しました。

介護現場のデジタル化(DX)は、この数年で大きく進みました。しかし、その効果を「十分に実感できている」事業所は約半数にとどまります。次に問われているのは、デジタルに置き換えた基盤の上で、AIが記録・計画・報告の“実行”まで担う段階——AX(AIトランスフォーメーション)です。
この記事は、当社がPR TIMESで公表した調査リリースを土台に、同じ切り口・同じデータを、現場の実務目線でより詳しく解説したものです。数値はすべて厚生労働省・総務省・公益財団法人介護労働安定センターなどの公表データに基づき、出典を明記しています。判定や成果の保証を目的とするものではありません。記事の後半には、「では、どう進めればいいのか」という実践の3つの方法まで踏み込みました。
結論:DXは“変革の土台”、AXは“その上でAIが実行する段階”
まず全体像を、先に置きます。
- DX(デジタル化)=“変革の土台”づくり。紙や手作業をデジタルに置き換え、記録・情報共有の基盤をつくる構造的な変化です。これは決して小さな一歩ではなく、後戻りできない前進です。
- AX(AIトランスフォーメーション)=その基盤の上で、AIが「判断」と「実行」まで担う段階。置き換えた上に“実行”が乗るため、DXの段階よりも効果を実感しやすいと考えられます。
ポイントは、DXとAXは対立ではなく順番だということです。DXという土台がなければAXは乗りません。逆に、DXで止まってしまうと、入力や転記の手間は残り、効果を感じにくいまま終わってしまいます。「入れたか」ではなく「回せた(AIが実行できた)か」で、事業所間の差が開き始めています。DXが“なぜ最初の一歩で止まりやすいのか”は、介護のDXが進まない本当の理由もあわせてご覧ください。
令和6年の姿——ICT導入は進んだが、効果実感は約半数
公益財団法人介護労働安定センターの「令和6年度介護労働実態調査」では、ケア記録・ケアプラン等の入力・保存・転記の機能を日常的に利用している事業所は75.4%にのぼりました。10事業所のうち7〜8が、なんらかの形でデジタルの記録に触れている計算です。デジタル化そのものは、着実に広がっています。
ところが、その先に“壁”があります。ICT機器・介護ロボットを導入しても、「昼間の業務負担の軽減」に効果を感じている事業所は49.4%、「夜間」は44.6%と、効果実感はおよそ半数にとどまっています(同調査)。「入れた」ことと「効いた」ことのあいだに、大きな溝がある——これが令和6年の姿です。
背景には、事業所そのものの厳しさもあります。従業員が「不足」と感じる事業所は65.2%(前年度64.7%)、「今の報酬では十分な賃金を払えない」は約39.1%(同調査)。人手も、原資も足りない。だからこそ、「入れただけ」で止められない、という切実さがあります。

なぜ半数か——デジタル化は「変革」。だが“実行”はまだ人の手に
誤解のないように言うと、DXが浅いから効果が出ない、のではありません。デジタル化は、紙の記録をタブレットに移し、情報を共有できるようにする、れっきとした変革です。土台としては大きな価値があります。
問題は、その先です。デジタルにはなったけれど、「入力する」「確認する」「転記する」「突き合わせる」といった“実行”の多くを、いまも人が担っている。たとえば——訪問先で話した内容を、事務所に戻ってから記録に打ち直す。アセスメントの結果を見ながら、計画書を一から手で組み立てる。実績を集計して、報告書の様式に写す。デジタル化しても、この“手数”そのものが消えるわけではありません。
効果実感が半数にとどまる背景には、この「基盤はできたが、実行の負担までは変わっていない」段階があると考えられます。負担が体感として軽くならなければ、「入れたけれど、正直あまり変わらない」という感想になるのは自然なことです。
AI時代の転機——DX(デジタル化)から AX(AIが“実行”する)へ
ここに、AIが入ります。AX(AIトランスフォーメーション)は、DXがつくったデジタル基盤の上で、AIが「判断」と「実行」まで担う段階です。具体的には、こう変わります。
- 記録:話す・撮るだけで、AIが下書きをつくり、転記まで行う。打ち直しがなくなる。
- 計画・報告:アセスメント等の情報から、AIが計画書・報告書の原案を作成し、人は確認・承認に集中する。
- 判断の支援:数字を人が読み解くのではなく、データからAIが示唆を出し、最終的な判断は専門職が行う。
部分的にAIを“使う”のではなく、業務のアウトプットそのものをAIが下書き・実行する。だから、置き換えた上に“実行”が乗るぶん、DXの段階よりも負担の軽減が体感につながりやすい——ここが分かれ目です。生成AIの実用化が進んだ2025年以降、一般企業でも「デジタル化推進部」を「AI活用(AX)推進」の体制へ再編する動きが報じられています。この考え方は、無理なく現場に定着させる「スローDX」の発想とも一致します。
DX×AX 対照表——記録・計画・判断・効果・国の後押し
DXとAXの違いを、場面ごとに並べて確認します。左が「デジタル化まで」、右が「AIが実行するAX」です。
| 場面 | DX(デジタル化) | AX(AIが判断・実行) |
|---|---|---|
| 記録 | 紙→タブレット入力(打ち直しは残る) | 話す・撮るだけでAIが下書き→転記まで |
| 計画・報告 | 様式を手で作成 | アセスメント等からAIが原案、人が確認・承認 |
| 判断の支援 | 数字を人が読む | データからAIが示唆、専門職が決める |
| 効果 | 効果実感は約半数(“実行”は人の手) | アウトプットが変わる(定着が鍵) |
| 国の後押し | ICT機器の導入支援 | 生産性向上・AIケアプラン原案支援ソフトも対象 |

これは介護だけの話ではない——AXは、すでに全産業を動かしている
AIによる業務の作り替え(AX)は、いま産業全体を動かしています。総務省の令和7年版情報通信白書によれば、企業は生成AIを文書作成やカスタマーサポート等に活用しており、その主な目的は人手不足対策と業務効率化。約75%の企業が「業務効率化や人員不足の解消につながると思う」と回答しています。人手が足りないから、AIで仕事のやり方そのものを変える——この動機は、介護とまったく同じです。
そして、導入が進むほど「使いこなせたか」で差が開いています。民間の調査(帝国データバンク・2026年)でも、生成AIの活用は「検討」から「実装」の段階へ移りつつある一方で、期待を上回る効果を実感できる企業は限られ、二極化が続くと指摘されています。なお、日本で生成AIの「活用方針を定めている」企業は42.7%で、米国・ドイツ・中国の約8割に比べ、およそ半分にとどまっています(総務省・同白書)。方針を決めた組織から、先に動いているのが現状です。
介護・看護・医療・障害福祉も、この流れの例外ではありません。むしろ、人手不足がもっとも深刻で、AIが最も必要とされる分野の一つです。他産業で「AXした事業者」と「していない事業者」の差が開いているのなら、それは介護・看護・医療・障害でも、やがて——そしてすでに——起こることだと考えられます。
介護に問われるAX——省力化だけでは埋まらない構造
介護(要支援を含む)の認定を受けている方は約690万人(令和4年5月時点・介護保険事業状況報告)。一方、介護職員は2026年度に約240万人が必要とされ、2022年度の約215万人から約25万人を積み増す必要があるとされています(第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について)。需要は増え、担い手は追いつきません。

この構造は、入力を少し減らすだけの“省力化”では追いつきません。記録・計画・報告といった、時間のかかるアウトプットそのものをAIが下書きし、専門職が確認・承認する——そうした「業務の作り替え(AX)」が、次に問われる論点になっていると考えられます。
国の後押しは、旗振りでなく“具体策”になっている(令和6→令和8)
国の後押しは、抽象的な呼びかけにとどまりません。少なくとも次の3つが、すでに動いています。

(1)報酬:生産性向上推進体制加算の新設(令和6年度改定)
見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入し、国の「生産性向上に資するガイドライン」に沿った業務改善を継続し、事業年度ごとに取組の実績データを厚生労働省に報告した事業所に、加算(Ⅱ)として一月あたり10単位を算定できる仕組みが新設されました。テクノロジーを複数導入し、報告データで成果が確認された場合には、より高い評価(加算(Ⅰ))が設定されています。あわせて、利用者の安全と職員の負担軽減を検討する委員会の設置(おおむね3か月に1回以上の開催)が求められます。「入れて終わり」ではなく「成果を報告する」ことまでを報酬に組み込んだ点が特徴です。要件の詳細は介護労働安定センターの解説資料(PDF)をご確認ください。

(2)対象:重点分野を9分野16項目へ拡充(令和6年6月)
国が支援の重点を置く介護テクノロジーの分野が9分野16項目へと拡充されました。移乗支援・移動支援・排泄支援・見守り・入浴支援・コミュニケーション支援などに加えて、機能訓練支援・食事栄養管理支援・認知症ケア支援が新たに位置づけられ、記録や情報共有を扱う「介護業務支援」も分野として明確化されました。名称も「ロボット技術の介護利用における重点分野」から「介護テクノロジー利用の重点分野」へと改められています。支援の裾野が、記録やソフトの領域まで広がったことを意味します。
(3)AIまで対象:AIケアプラン原案作成支援ソフトも対象経費に
介護テクノロジー導入支援事業では、都道府県の実施要綱において、介護ソフトやタブレット等に加えて「AIケアプラン原案作成支援ソフト」も対象経費に挙げられています。デジタル機器の導入だけでなく、AIによる業務支援まで、補助の対象が広がっています。補助率・上限額・締切は自治体ごとに異なります。詳しくは介護テクノロジー補助金の解説、ICT導入支援事業とは、介護ソフトの補助金まとめ、補助率1/2・3/4・4/5の計算例をご覧ください。
国の関心は「導入したか」から「成果が出たか」へと移りつつあります。これは、“入れただけ”を超えるAX(業務の作り替え)の方向と重なります。
先行事例の成果——差は、もう開き始めている
「入れただけ」と「業務そのものを作り替えた」の差は、数字にも表れ始めています。
- 見守り機器を全床に導入した施設では、夜勤職員1人あたりが対応できる利用者数が平均+35.2%と示されています(厚生労働省の生産性向上の効果測定・実証)。導入割合が高い施設ほど、業務時間に占める「直接介護」や「巡回・移動」の割合が下がる傾向も確認されており、リアルタイムに状態を把握できることで、必要なタイミングでケアができるようになったためと推察されています。
- 生産性向上に先進的に取り組む特定施設では、介護サービスの質の確保と職員の負担軽減を確認したうえで、人員配置基準の特例的な柔軟化が認められています(令和6年度改定)。取り組みが進んだ事業所は、成果に加えて、経営上の選択肢まで広がる形になっています。

つまり、テクノロジーやAIを「入れたか」ではなく、「業務そのものを作り替え、成果を出せたか(AX)」で、事業所間の差が開き始めています。人手不足が深刻になるほど、この差は経営に効いてきます。
AXする体力があるうちに——「淘汰」と「急ぎすぎ」のあいだ
ここからは、公表データではなく、私たちが現場で得た見立てです。
差が開くほど、後発は追いつきにくくなります。そして、AXに取り組むには、人・時間・気持ちの“余力”が要ります。正直に言えば、その体力が残っていない事業所ほど、これから先、淘汰されかねない——私たちはそう考えています。だからこそ、余力がまだあるうちに、小さくでも始めておくことに意味があります。
いっぽうで、ここで力みすぎるのも危険です。一気にAX(スゴイこと)をやる必要はありません。むしろ、急ぎすぎると現場が疲弊し、「AIはもう嫌だ」という空気が生まれて、かえって遠回りになります。焦りは、いちばんの敵です。
答えは、シンプルです。小さく始めて、続ける。その具体的なやり方を、3つの方法にまとめました。
この変化に対応する、3つの方法

方法1:2割のAXから始める(2:6:2の法則)
どんな組織にも、変化に前向きな2割、中立の6割、抵抗する2割がいる、と言われます(2:6:2)。ここで大事なのは、いきなり全員に一斉導入しないことです。まずは抵抗のない2割の人に、AXのうちいちばん負担の軽い2割の業務から試してもらう。小さな成功体験を先につくると、中立の6割が自然と後に続きます。抵抗する2割を最初に説得しようとすると、たいてい止まります。入口は“いちばんラクなところ×いちばん前向きな人”から。
方法2:1日1つずつ覚える(3ヶ月かけるイメージ)
新しい道具を一度に覚えようとすると、現場は必ず息切れします。おすすめは、1日にひとつだけ、できることを増やすこと。今日は音声で記録を1件、明日は写真から1件、というふうに、ひとつずつ。3ヶ月くらいかけて身につけるイメージで十分です。急がないことが、結局はいちばんの近道になります。
方法3:とにかく“触れた回数”を増やす(効果は2週間後から)
上達は、才能よりも接触回数に比例します。だから、うまく使えなくてもいいので、まず触る回数を増やす。経験上、効果を感じ始めるのは、だいたい2週間後からです。そこからは、2週間ずつの改善ループ——「やってみる→気づく→少し変える」を回していくと、少しずつ加速して伸びていきます。最初の2週間で判断せず、まず2週間、続けてみてください。
「一気にスゴイことをする」必要はありません。急ぎすぎると、かえって危ない。小さく始めて、続ける。それが結果的に、いちばん速く、いちばん壊れにくい進め方です。
※この進め方は、当社が現場で得た知見に基づく整理であり、効果や成果を保証するものではありません。
現場で起きていること——「デジタル」から「AIで回す」へ
デジタル化だけでなく、AIで日々の業務を回すようになると、現場からは次のような声も出始めています。心理的な負担が軽くなった。到底さばけなかった仕事量が、限られた時間でこなせるようになった。1日では終わらず「夜も気になって眠れない」状態だった業務が、その日の業務時間内に片づき、数年来の悩みが解けた——。こうした変化に触れ、これまでAIに積極的でなかった職員も使い始め、事業所全体へ広がっていきます。
この動きは令和6年以降、令和7〜8年で加速しており、令和9〜10年にはさらに大きくなると見ています。介護の“常識”すら、この数年のAXで変わり得るかもしれない——現場に立ち会ってきた私たちは、そう感じています。
※上記は現場で聞かれ始めている声であり、効果を保証するものではありません。効果は事業所の状況により異なります。
AXを進めるときの実務注意
AI・AXの導入や、記録をAIに渡す運用にあたっては、利用者の氏名・被保険者番号などの個人情報の扱い(伏字・事業所内ルールの確認)にご留意ください。制度の要件・単位数・様式は、改定や自治体運用により変わります。加算の算定や補助の可否は、必ず告示・通知・自治体の実施要綱の原典と、貴事業所の登録内容をご確認ください。本記事は特定の製品・サービスの効果や算定を保証するものではありません。
よくある質問(FAQ)
DXとAXは何が違いますか?
DXは紙や手作業をデジタルに置き換える“変革の土台”づくり、AXはその基盤の上でAIが判断・実行まで担う段階です。AXは置き換えた上に“実行”が乗るため、DXの段階より効果を実感しやすいと考えられます。
何から始めればいいですか?
いちばん負担の軽い業務を、抵抗のない人から、小さく試すのがおすすめです(2:6:2の法則)。全員一斉導入は避け、成功体験を先につくると広がりやすくなります。
効果が出るまで、どれくらいかかりますか?
経験上、効果を感じ始めるのは2週間後くらいからです。その後は2週間ずつの改善ループを回すと、少しずつ加速していきます。最初の2週間で判断しないことがコツです。
生産性向上推進体制加算とは何ですか?
令和6年度介護報酬改定で新設された加算です。テクノロジーの導入とガイドラインに沿った業務改善を継続し、実績データを厚生労働省に報告することが求められます。加算(Ⅱ)は一月あたり10単位、成果が確認された場合はより高い加算(Ⅰ)が設定されています。要件は原典をご確認ください。
AIケアプランは補助金の対象になりますか?
介護テクノロジー導入支援事業では、都道府県の実施要綱において「AIケアプラン原案作成支援ソフト」も対象経費に挙げられています。補助率・上限・締切は自治体ごとに異なります。
出典
- 公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度介護労働実態調査」(調査ページ/公表資料PDF)
- 厚生労働省「介護分野における生産性向上」(厚生労働省ウェブサイト):生産性向上の効果測定・実証事業、生産性向上推進体制加算、介護テクノロジー利用の重点分野の改訂、介護テクノロジー導入支援事業 ほか
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」(総務省ウェブサイト)
- 厚生労働省「介護保険事業状況報告」「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(厚生労働省ウェブサイト)
出典:厚生労働省ウェブサイト/総務省ウェブサイト/公益財団法人介護労働安定センター/公共データ利用規約(第1.0版)。本ページは上記を当社が編集・加工したものであり、各府省庁・調査機関の公式見解ではありません。割合・推計は各調査・推計の公表時点のものであり、調査年度や集計方法により変わります。「淘汰」「進め方」など制度データ以外の記述は当社の現場知見に基づく見解であり、効果や結果を保証するものではありません。数値・定義は原典をご確認ください。
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この記事の執筆・編集
介護のマナ編集部(株式会社ライフシフト)
介護記録AI「神マナ(介護のマナ)」を開発・提供する株式会社ライフシフトの編集部。訪問看護ステーションを運営する看護師(CSO)をはじめ、介護・看護の現場とともに、記録・書類・制度の実務情報を発信しています。
