第2部 いまの時代の一点=AX
第1部の原則は、何十年前でも通用した話です。
では、いまの時代に、何が違うのか。
人・もの・金・情報。事業を動かす4つのうち、この数十年で桁違いに変わったのは、情報です。
そして、その情報を扱う技術——とくにAIは、「書く」「まとめる」「転記する」という実行まで担えるようになりました。
第2章で、第1部の原則はすべて恐怖の扱い方だと書きました。第2部は、その怖さを割る5分さえ奪っていく重さ、情報の話です。
第2部では、この一点に集中します。
ここでも、第1部の原則はそのまま使えます。
目標を決め、怖さを割り、小さく始め、知識を借り、仲間と進み、続ける。
変わったのは、手に持つ道具だけです。
ムリ・ムラ・ムダは、情報の問題
「はじめに」の、いちばん最初の一文に戻ります。
今日、同じ利用者さんの名前を、何回書いたでしょうか。
記録に1回。申し送りに1回。月末の報告書に、もう1回。
その3回の後ろに、介護・看護・医療・障害福祉——ケアの現場に共通する3つの敵がいます。
- ムリ — 無理な業務量、無理なスケジュール
- ムラ — 人によってやり方が違う、品質がバラバラ
- ムダ — 同じ情報を何度も転記する、探し物に時間がかかる
この3つは、実はすべて「情報の問題」です。
記録がアプリに集まれば、ムダな転記が減る。
テンプレートがあれば、ムラが小さくなる。
全体が見える化されれば、ムリな計画を立てにくくなる。
だから、情報の扱い方には3つの原則があります。
情報の側から見れば、DX・AXの正体は、この3つです。
この章の残りの2節は、この原則を「画面」と「知らせ方」で確かめる話です。
・利用者さん1人を選び、1日のうちに同じことを書いた回数を数える(「一度だけ書く」の候補)
・「どこにあったっけ」と探した回数を、1日だけ数える(「一か所に置く」の候補)
・付箋や記憶に頼っている期限を、紙に書き出す(「先に知らせてもらう」の候補)
画面は、人を迷わせていないか
情報を一か所に置いても、その場所が見づらければ、人はまた探しはじめます。画面は、「一か所に置く」を守るための道具です。
UIとは「ユーザーインターフェース」。
簡単に言えば、画面の見た目と使いやすさです。
どんなに優れた機能があっても、画面が見づらければ誰も使いません。
逆に、画面が直感的で気持ちよければ、自然と毎日使いたくなる。
スマートフォンが世界を変えたのは、「指で触るだけで動く」という、圧倒的に簡単なUIだったからです。
これが「UIが9割」の意味です。
道具を選ぶときは、施設でいちばんITが苦手な職員に、説明なしで1件入れてもらってください。
迷わず入れられるかどうかが、その画面の答えです。
先に知らせてもらう
「何をすればいいかわからない」
これが、DX・AXが進まない大きな原因のひとつです。
情報の3原則の3つめ、「先に知らせてもらう」の話です。
サジェストとは、「次にやるべきこと」をアプリが提案してくれる機能。道具がなくても、考え方は同じです。詰所のホワイトボードに「今月の期限」欄をつくれば、それも人の手でつくるサジェストです。
「今日の記録がまだです → 記録を入力する」
「月末です → 報告書を作成しましょう」
迷う時間がなくなる。次の一手を、仕組みが教えてくれる。
迷わないから、続けられる。
そしてケアの現場で最も怖いのは、「見落とし」です。
記録の入力忘れ、計画書の更新漏れ、指示書や保険証、受給者証の期限切れ。
人は忘れる生き物です。だから、覚えておくことを仕組みに預けるのです。
- アラート — 「この記録が未入力です」
- ナビ — 「ここをタップしてください」「次はこの画面です」
ただし、知らせが多すぎると、人は知らせを見なくなります。知らせる項目は、本当に見落とせないものから1つずつ増やしてください。知らせが来なかったことは、確かめたことにはなりません。