☰ 目次宇宙一カンタンなスローDX・AXの教科書
第4章
知識を借りる

むずかしいことは、しない

これ以上カンタンにできない所まで削る

第3章で、明日5分でできる1つを選びました。ところが、それを実際のやり方や道具に落とそうとすると、きっとこの声が出てきます。

デジタル、IT、DX、そしてAX。
言葉はいろいろありますが、浮かぶ気持ちは、たぶんひとつです。

「大事なのはわかる。でも——」

  • 何から手をつければいいのかわからない。
  • 詳しい人が社内にいない。
  • 導入したところで、現場が使いこなせるか不安。
  • そもそも、日々のケアと書類で手いっぱいで、新しいことを始める余裕がない。

全部、私が思っていたことです。

第2章で割った怖さと、根は同じです。「やり方が分からない」は、怖さのもうひとつの顔です。
介護でも、看護でも、医療でも、障害福祉でも、多くの施設が、同じところで止まっています。

止まっているのは、
あなたのせいではありません。
やり方が、難しすぎただけです。

だから、これ以上削れない所まで削りました

この本に、難しい話は出てきません。

  • 新しい機器に、いちどきに入れ替える必要はありません。
  • 詳しい人を、新しく雇う必要もありません。
  • 今のやり方を、捨てる必要もありません。

私たちがやったのは、今あるものを活かしたまま、足りないところだけを補うこと。
それだけです。

しかも、一度に全部ではありません。
「はじめに」でお話しした、1日1つです。

「宇宙一カンタン」と書いたのは、大げさに言いたいからではありません。
これ以上カンタンにしようがないところまで削ったものだけを、この本に残したからです。

難しいことは、続きません。
続かなければ、何も変わりません。
続けられたことだけが、5年後の数字になりました。

そこまで削れたのは、私たちが賢かったからではありません。

ゼロから考えない

最初の一歩は、真似でいい

カンタンにできた理由は、ひとつです。自分たちで、ゼロから考えなかった。

あなたの施設でも、同じです。

「真似する」こと。

真似は、手抜きではありません。いちばん速い進め方です。

巨人の肩に乗る

科学者アイザック・ニュートンは、こんな言葉を残しています。

「私がより遠くを見ることができたのは、巨人の肩の上に立っていたからだ」

天才と呼ばれるニュートンでさえ、ゼロから考えたわけではありませんでした。
先人たちの知恵を学び、その上に自分のアイデアを積み重ねたのです。

すでにうまくいっている施設がある。
すでに成果を出しているツールがある。

その「巨人の肩」に乗ればいい。

大切なのは、「比較」ではなく「吸収」です。
他の施設と自分を比べるのではなく、良いところだけを自分たちに取り入れる。

トヨタの「カイゼン」も、良いやり方を徹底して学び、自分たちの現場に取り入れることを重んじてきました。この本の考え方と並べると、こうなります。

カイゼン → この本の考え方

- 「小さな改善を毎日続ける」 → 「1日1つでいい」(第3章)
- 「現場が主役」 → 「前向きな2割から始め、現場の数字で広げる」(第5章)
- 「完璧を求めない。まず動く」 → 「100点ではなく、最適を目指す」(第6章)
- 「良い事例は徹底的に真似る」 → 「ゼロから考えない」(この章)

「カイゼン」の知恵を、介護にも応用する

介護の日常の流れに、スローDX・AXを重ねる

介護には、誰もが知っている基本の流れがあります。

介護過程の基本サイクル

① 要介護認定 → ② アセスメント → ③ ケアプラン作成 → ④ サービスの実施 → ⑤ モニタリング → ⑥ プランの改善

この流れは、どんな施設でも、どんな利用者さんでも同じです。
介護を学んだ人なら、誰もが最初に教わる基本中の基本。

看護や障害福祉でも、呼び名が変わるだけで、流れは同じです。「アセスメント→計画→実施→振り返り→見直し」。ここから先の「ケアプラン」は、あなたの施設の計画書(看護計画、支援の計画など)に読み替えてください。

スローDXとは、このいつもの流れを、1つずつデジタルに置き換えていくこと。
置き換えたその先で、AIに実行まで任せる話(AX)は、第2部でします。

どちらも、やることは1日1つ。それだけです。

介護過程 × スローDX・AX

- アセスメント → 紙のメモを一か所にまとめる。探さなくて済む
- ケアプラン作成 → 前回の計画や記録を土台に、下書きから始める
- サービスの実施 → 記録をその場で入力する。転記を減らす
- モニタリング → 記録が同じ場所に溜まる。前回との違いを見比べやすくなる
- プランの改善 → 溜まった記録を根拠に、見直しができる

「全部を一度にやろう」としなくていい。

まず1つ。
記録だけ、
アプリに入れてみる。

全事業所・全員でなくていい。ひとつの事業所の、ひとつの種類の記録からで十分です。

まだ道具を何も入れていないなら、その前に、どの記録から始めるかを1つだけ決めてください。いちばん枚数が多い記録か、いちばん転記が多い記録です。
そして、知り合いの事業所や同じ仕事の仲間に「最初に、何の記録から変えましたか」と1つだけ聞いてみる。それが、この章の「知識を借りる」のいちばん小さな形です。

それだけで、次のステップが自然と見えてきます。

記録がデジタルになれば、月末の報告書の下書きを、記録から作れるようになる。
報告書が早くできれば、モニタリングに時間を回せる。
モニタリングが楽になれば、プランの見直しに時間を使える。

1つの変化が、次の変化を呼ぶ。
これが「じわじわ成功する」スローDX・AXの力です。

この順番は、多くの施設に共通しています。
だから、うまくいった施設の順番を、そのまま借りればいいのです。

先人が通った、5つの分かれ道

うまくいかなかったやり方からも借りる

借りるのは、うまくいったやり方だけではありません。うまくいかなかったやり方も、同じくらい役に立ちます。多くの施設が通った分かれ道を、5つ並べておきます。

全替え→今あるものに、つなげる
「今の介護ソフトから別のシステムに全部乗り換えよう!」は危険です。今のやり方を変えなくていい。足りない部分だけ補う。合わなければ元に戻せる形で始めれば、試すこと自体が怖くなくなります。契約の前に、やめるときの条件(解約の時期、データを持ち出せるか)を1つだけ確かめておくと、戻れる形かどうかが分かります。
1日で全部覚える→1日ひとつだけ覚える
3時間の研修で一気に詰め込むと、月曜日にはほとんど忘れています。「今日は記録の入れ方だけ。5分で終わります」なら、集中できて、すぐに実践できて、「できた!」が残ります。
完全自動→AIが下書き、人が仕上げる
AIは万能ではありません。AIが下書きをつくり、人が確認して仕上げる。自分の目で見るから安心。スタッフのスキルも維持できます。
100%を目指す→まず、ひとつの場所にまとめる
全部の機能を完璧に使いこなす必要はありません。記録も、計画書も、報告書も、1つの場所にある。必要な時に、必要な機能だけ使えばいい。
人にだけ聞く→AIにも何度でも聞く
「これ、どうやるんでしたっけ?」「今ちょっと忙しくて……」。AIなら24時間いつでも聞ける。何度聞いても嫌な顔をされません。ただし、手順や制度についての答えは、手順書や原文で一度確かめてから使います。

第4章のまとめ

1むずかしいことはしないこれ以上カンタンにしようがない所まで削った、1日1つ
2真似から始めるうまくいっている施設のやり方を借りるのが、いちばん速い
3分かれ道を先に知る全部入れ替えず、つなげる。詰め込まず、1日ひとつ。任せきらず、AIは下書き
4介護過程に重ねるアセスメントから見直しまで、いつもの流れを1つずつ置き換える

この章で、問いはここまで絞られた

描いた姿に近づくために、
誰の、どのやり方を借りるのか。