なぜ「スロー」なのか、先に答えを言います
この章は、「なぜ急がないほうが、結局は速いのか」という話です。
先に、全部お見せします。
読み終わるころには、「うちにも、できそうだ」に変わっているはずです。
ここから、ひとつずつ詳しくお話しします。
99%の施設が間違える「DX・AXの始め方」
アフリカに、こんなことわざがあります。
「早く行きたければ、一人で行け。遠くへ行きたければ、みんなで行け」
DXも、AXも同じです。
「一気にやろう」とすると、ついていける人と、ついていけない人が出ます。結果、一部の人だけが使いこなし、他の人は置いていかれる。やがて「やっぱりうちには合わなかった」と元に戻ってしまう。
でも、ゆっくり進めれば、全員がついてこられます。
1人も取り残さず、施設全体が変わっていく。
「遠くへ行く」ために、あえて「スロー」で行く。
うさぎとカメが教えてくれること
イソップ寓話の「うさぎとカメ」。
カメが勝った理由を、こう解釈する人が多いでしょう。
「コツコツ続ければ、いつか勝てる」
でも、もう一つ大切な教訓があります。
カメはうさぎと自分を比較していません。
ただ自分のペースで、ゴールだけを見つめて歩き続けた。
スローDX・AXも同じです。
他の施設と比べて焦る必要はない。
「あそこはもうAIを使っている」「うちは遅れている」——そんな比較は意味がありません。
大切なのは、自分たちのペースで、一歩ずつ前に進むこと。
それが、じわじわと確実に成功する方法なのです。
これがスローDX・AXの根っこにある考え方です。
変われない本当の理由は、忙しさではありません
「やりたいんですが、時間がなくて」
導入のご相談で、いちばん多く聞く言葉です。
でも私は、この言葉をそのままは受け取らないようにしています。
なぜなら、時間ができても、始まらないからです。
本当の理由は、たいてい別のところにあります。
怖いのは、いいかげんな人ではありません
現場で「新しいものはちょっと」と言う人ほど、実は責任を負っている人です。
- 記録が間違っていたら、監査で指摘されるのは自分
- 請求がずれたら、返戻の処理をするのは自分
- 事故が起きたら、ご家族に説明するのは自分
そういう立場の人にとって、変化そのものが脅威です。
「今のやり方なら、少なくとも間違っていない」。そう思うのは当たり前のことです。
実際にあった話をします。
ある精神科の訪問看護ステーションで、ソフトを切り替えたときのことです。
記録の書き方がひとつ変わっただけで、管理者の方から「不具合だ」というご連絡が続きました。
よく話をうかがって、ようやく分かりました。
その方が見ていたのは、機能ではありません。監査です。
記録は、監査で最初に見られる書類です。
そこに少しでも見慣れない形が出ると、その方には「指摘されるかもしれない自分」が見える。
だから、小さなズレでも「不具合」という言葉になる。
これは、現場の職員も、管理者も、経営者も、まったく同じです。
私も、いちばん怖いものを見ていませんでした
偉そうに書いていますが、私も同じでした。
「はじめに」で、赤字だった会社が黒字に変わった話をしました。
あのとき、いちばん時間がかかったのは、改善策を考えることではありません。
数字を開くことでした。
開けば、自分の経営の結果が全部そこに出ています。
だから、見ない。見ないから、何も打てない。打てないから、もっと怖くなる。
この輪から抜ける方法は、ひとつしかありませんでした。
スローとは「直視できる大きさに割る」こと
ここが、この本でいちばんお伝えしたいことかもしれません。
スローDX・AXは、ゆっくりやることではありません。
怖くて見られないものを、見られる大きさに割る方法です。
一度に全部を変えようとすると、失敗したときに戻る場所がありません。
だから動けない。これは意志の弱さではなく、まっとうな判断です。
でも、1日にひとつだけなら。
うまくいかなくても、明日また元に戻せる。戻れると分かっているから、手が伸びる。
半世紀以上にわたって確かめられています。効くのは強さではなく、回数です。
「1日5分」「まず3名だけ」「録音ボタンをひとつ押すだけ」。
この本がずっと小さな一歩の話をしているのは、そのためです。
この章のすべては、恐怖の扱い方です
ここまで読んで、気づかれたかもしれません。
この章でこれからお話しすることは、実は全部ひとつのことを言っています。
恐怖は、なくす必要はありません。
恐怖があるから、記録を残し、確認し、丁寧になれる。それは強みです。
必要なのは、恐怖に負けないことではなく、恐怖を扱えるサイズにすること。
その方法が、スローDX・AXです。
そして、恐怖を小さくする方法は、実はひとつしかありません。
慣れることです。次の節で、その話をします。
始めるのは、早いほうがいい
ここまで「急がなくていい」という話をしてきて、
まったく逆のことを言うようですが、ひとつだけ急いだほうがいいことがあります。
始めることです。
AIは、待ってくれません
AIの進化は、まっすぐではありません。加速度がついています。
1ヶ月後、3ヶ月後、半年後には、今できないことができるようになっています。
これは予想ではなく、この2年、実際に起きてきたことです。
ここで、少し意地悪な言い方をします。
「もう少し様子を見てから」と待った半年のあいだに、AIは半年ぶん先に行きます。
そのとき始めると、半年ぶんをまとめて覚えることになります。
先に始めた会社は、その半年を1日ずつに分けて受け取っていました。
同じ量を学ぶのに、片方はスロー、もう片方は全力疾走です。
恐怖を消す方法は、ひとつしかありません
前の節で、変われない理由は恐怖だとお話ししました。
では、恐怖はどうすれば小さくなるのか。
説得ではありません。研修でもありません。
慣れです。
これは人間がもともと持っている、いちばん強い性質だと思っています。
はじめて触るものは怖い。10回触ったものは、もう怖くない。それだけのことです。
そして慣れは、回数でしか手に入りません。回数には、時間が要ります。
だから——早く始めるしかないのです。
「AIって、なんか怖い」から、
「これ、こう使えばいいんじゃない?」へ。
この変化は、説明では起こりません。触った人にしか起きない変化です。
その意味で、社員がAIに触れている時間そのものに、すでに価値があります。
正直に書きます。神マナも、完璧ではありません
使いはじめれば、必ずひっかかりがあります。
AIが思ったとおりに動かない。前のソフトと書き方が違う。細かいところが自分のやり方と合わない。
全部、実際に起きています。
私たちは毎日、現場からいただく声をもとに、細かい調整を続けています。
「完成したものをお渡しする」のではなく、「一緒に育てていく」形です。
それでも早く始めたほうがいいと申し上げるのは、
触れ続けている会社だけが、進化をそのまま受け取れるからです。
AIが進化しても、神マナが新しい機能を出しても、
毎日触っている人にとっては「また少し便利になった」で済みます。
触れていない会社にとっては、入口の段差が、その分だけ高くなっていきます。
いま積んでいる記録が、いちばんの資産になります
私たちが目指している先を、最後に少しだけお話しします。
記録・書類・制度の情報が、ばらばらではなくひとつにつながった状態をつくること。
そこまで来ると、AIは「書く」だけでなく、
「この記録で、運営指導のときに困らないか」を先に点検するところまで踏み込めます。
夢物語ではありません。そのための材料を、いま一つずつ積んでいます。
そして、その材料になるのは——あなたの事業所が今日つくった記録です。
この「いつ始めたか」で差がついた例を、私はひとつ、はっきり覚えています。
次の節でお話しさせてください。
10年後に残っていた5店舗が、全部やっていたこと
もう15年以上前になりますが、いまでもはっきり覚えているテレビ番組があります。
「昔とても人気だった、あのお店は今どうなっている?」——
そんな企画で、かつて行列ができていた10軒のお店を訪ねていく番組でした。
結果は、きれいに半分に分かれていました。
10軒のうち、5軒はもうありませんでした。
そして残りの5軒は、当時よりずっと大きくなっていたのです。
見ているうちに、私はあることに気づきました。
残っていた5軒が、全部おなじことをしていたのです。
インターネット通販でした。
2000年代の後半です。「ケーキやパンや、お惣菜が、ネットで売れるわけがない」。
そう言われていた時代です。実際、やっていないお店のほうが多かった。
その5軒は、まだ誰もやっていないうちに始めていました。
そして番組が訪ねたときには、何ヶ月待ち・何年待ちの通販になっていたのです。
なぜこの話を、いまでも覚えているのか。
同じことが、目の前でもう一度起きていると感じるからです。
いまが、介護・看護・医療・障害福祉の黎明期です
ChatGPTが世に出て、まだ2〜3年です。
出たばかりの頃は、「大したことないね」「ここまでしかできないよね」と言われていました。
それが今どうなっているかは、みなさんご存じのとおりです。
そしてこの先の1年、2年、3年で、また同じだけ——いえ、それ以上に変わります。
一方で、介護・看護・医療・障害福祉の現場でAIをどう使うかについては、
まだ誰も完成した答えを持っていません。いまは、その答えを探している最中です。
つまり、あの5軒が通販を始めたときと、同じ場所に私たちはいます。
「うまく使う」必要は、ありません
黎明期に触れておくことの値打ちは、使いこなせるようになることではありません。
その世界の言葉が分かるようになることです。
何ができて、何ができないのか。どこは任せて、どこは人がやるべきなのか。
これは説明では手に入りません。触った人の中にだけ、少しずつ溜まっていきます。
神マナは、莫大な費用がかかるものではありません。
利用者3名までなら、期間の制限もなく無料で全機能を試せます。
まず触れておく。それだけで十分に意味があります。
最後に、私自身のことを
私の会社も、家族が営む「陽気」も、いまAIをフルに使っています。
ここから業績を5倍、10倍にしていく計画を、本気で進めているところです。
数年後に、「あのとき始めたから、ここまで来られたね」と言い合えるように。
そして願わくば、この本を読んでくださっているあなたの事業所とも、
同じ言葉を交わせるように。
だから、ひとつだけお願いさせてください。
では、その「ゆっくり」とは、具体的にどれくらいの量から始めればいいのか。
次から、数字でお見せします。
1日たった5分で、施設が変わり始める
どれくらいスローがいいのか?
答えはシンプルです。
「無理をしない程度」
「今日は1つだけ新しいことをやってみよう」
それで十分です。
月曜日に記録の入力方法を覚えた。
火曜日は同じことをもう一度やってみた。
水曜日には、もう迷わずできるようになっていた。
この「小さな成功体験」の積み重ねが、スローDX・AXのすべてです。
1日1つ。たった1つだけ。それを続けるだけでいい。
70代のスタッフが「楽しい!」と言った理由
新しいツールを使いこなせるかどうか。
それを決めるのは、才能でも、年齢でも、ITスキルでもありません。
「何回触ったか」 です。
スマートフォンを思い出してください。
最初は「こんなの使えない」と思っていたはずです。
でも毎日触っているうちに、いつの間にか手放せなくなった。
これは、気合いや性格の問題ではありません。
心理学に単純接触効果という言葉があります。
くり返し触れたものほど、人はそれを好きになる。
1968年にロバート・ザイアンスが示して以来、
くり返し確かめられてきた、人のごく基本的な性質です。
「触るほど好きになる」のは、根性の話ではなく、人のつくりの話なのです。
触れば触るほど、ゲーム感覚になっていくのです。
「今日は記録を5件入れてみよう」
「昨日より1分速く終わった!」
「報告書が自動で出来た!すごい!」
ゲーム感覚になったとき、DXもAXも「やらなきゃいけないこと」から「やりたいこと」に変わります。
たったそれだけで、施設全体の空気が変わりはじめます。
正しいデータが、自然と蓄積されていく。
「成長している」という実感が、次の工夫を生む。
その工夫が、また少しだけ楽にしてくれる。
このサイクルが回りはじめると、「楽しい」という感覚は自然と生まれてきます。
「楽しいと思おう!」(ポジティブシンキング)ということではありません。
そういう仕組みになっているから、自然と楽しくなるのです。
この「楽しい」には、名前がついています
ゲーミフィケーションといいます。
達成感、進み具合の見える化、小さな「できた!」——
ゲームが人を夢中にさせる要素を、仕事の側に持ち込む考え方です。
思いつきの精神論ではありません。研究の裏づけがあります。
できるようになる手ごたえ(有能感)、誰かとつながっていること(関係性)。
自己決定理論と呼ばれ、教育・医療・職場で40年以上、検証が重ねられてきました。
さらに、働く人の日誌を大量に分析したハーバードの研究チームは、
仕事の中で人の気持ちを最も強く押し上げるものを見つけています。
昇給でも表彰でもなく、「小さくても、前に進んだ」という実感でした。
さきほどの3つのつぶやきを、もう一度見てください。
- 「今日は記録を5件入れてみよう」——自分で決めている。
- 「昨日より1分速く終わった!」——できるようになっている。
- 「報告書が自動で出来た!」——小さく前に進んだ。
偶然ではありません。やる気が出る条件を、そのまま満たしているのです。
ひとつ、正直に書いておきます。
ゲーミフィケーションの研究をまとめたレビューは、
「効果はおおむね認められるが、どんな場面でも同じように効くわけではない」と慎重です。
効き目を分けるのは、小さな「できた!」が毎日1つ生まれる形になっているか。
だから、1日1つなのです。
月50時間が消える? 数字で見る衝撃の効果
「1日1つで本当に変わるの?」
この疑問に、数字で答えましょう。
たとえば「記録の入力を紙からアプリに変えた」。
これだけで、1日あたり約20分短縮できるとします。
20分 × 30日 = 月に10時間 の節約。
では、1ヶ月かけて5つ改善したら?
20分 × 5つ × 30日 = 月に50時間。
焦る必要はありません。
ゆっくりで、大丈夫なのです。
その「トラブル」、エラーだと思ってみてください
現場には、いつも同じ顔ぶれの「困った」があります。
- 「あの人だけ、どうしても使ってくれない」
- 「また、言った言わないになった」
- 「運営指導で、指摘されてしまった」
- 「この作業、どう考えても時間がかかりすぎている」
- 「気づけば、いつも同じ人に負担が偏っている」
- 「あの業務は、あの人しかできない」
介護でも、看護でも、医療でも、障害福祉の現場でも、驚くほど同じです。
ここで、施設の未来が分かれます。
「トラブル」と呼ぶか、「エラー」と呼ぶか
同じ出来事でも、呼び方を変えると、頭の動き方が変わります。
言葉遊びに聞こえるかもしれません。でも、これは訓練の効果として確かめられている話です。
新しいシステムの研修で「間違えないように」と教えたグループより、
「間違いは起きる。起きたら直せばいい」と教えたグループのほうが、
のちの成績が良かった。エラーマネジメントと呼ばれる研究で、
くり返し報告されてきた結果です。
エラーを扱えるようにしたほうが、強い。
課題には、必ず要因があります
そして、要因があるということは、打つ手があるということです。
大事なのは、「なんとなくうまくいかない」で止めないこと。
ひとつ下に降りて、「何が」を見つけることです。
「かかっているのは、夜勤帯だけ」
「先月から、記入項目の多い様式が3人分増えた」
「その様式は、前の担当者の頃から見直していない」
ここまで降りれば、もう半分は解けています。
要因が特定できた課題は、たいてい対応策があります。
逆に言えば、解けないと感じるときは、まだ課題が大きすぎるだけです。
「よそ者」のほうが気づく!?
実は、課題解決の糸口には、意外と、「よそ者」のほうが気づきます。
その打つ手は、いちばん詳しい人ではなく、
外から来た人から出てくることがよくあるのです。
新人。別の事業所の方。ぜんぜん関係ない部署の人。
中にいる人ほど、そのやり方に慣れています。
慣れているから、「そもそも、なんでこの手順なんですか?」と聞けない。
外にいる人は、慣れていません。だから、聞けます。
その素朴な質問が、要因をあっさり照らすことがあります。
良いアイデアは、集団の内側よりも「境目」に立つ人から出やすい。
これも、経営学の研究が繰り返し示してきたことです。
そして今は、24時間つきあってくれる「よそ者」がいます。
AIです。何度聞いても、嫌な顔をされません。
「愚痴」で終わらせるか、「エラー」として話すか
これは、ひとりで抱える話ではありません。
むしろ、チームで共有したほうが、ずっと早い。
休憩室で出る「もう、あの人ほんとに使ってくれないよね」。
そこで終われば、ただの愚痴です。明日も、同じ話をします。
でも、そのあとに一言だけ足せる人がいると、場が変わります。
たったこれだけで、不満はエラーの報告に変わり、
その場は修正の相談に変わります。
責める相手を探す会議は、疲れます。
打つ手を探す会議は、なぜか元気が出ます。
同じ時間を使うなら、後者にしましょう。
属人化も、負担の偏りも、言った言わないも、
「誰が悪いか」ではなく「どこを直すか」で話せたチームから、順に消えていきます。
課題解決が趣味になると最強
トラブルが来た、嫌だな——ではなく、
エラーが出た、どこだろう——になる。
さらに、その先があります。
ここまで来たら、もう止まりません。
課題が来るたびに、施設が1つずつ賢くなっていきます。
これは、さきほどのゲーミフィケーションと同じ仕組みです。
解ける手ごたえがあるから、面白くなる。
パズルは、難しすぎると投げ出したくなります。簡単すぎても、つまらない。
ちょうどよく解ける大きさのとき、人はいちばん夢中になります。
だから、いきなり大きな課題に挑まないこと。
解ける大きさに切って、1日1つ。
ここでも、答えは同じです。
成功する施設だけが知っている「3つの鉄則」
スローDX・AXには、3つの原則があります。