
スローDX・AXの
教科書
たった1つの考え方
今日、同じ名前を何回書いたか
今日、同じ利用者さんの名前を、何回書いたでしょうか。
記録に1回。申し送りに1回。月末の報告書に、もう1回。
「良い施設にしたい」と思っていない経営者も、職員も、いません。
足りないのは想いではありません。想いに使える時間と、それを続けられる経営の体力です。
記録、転記、報告書。どの施設でも、想いに使うはずの時間が、同じところで削られています。
この本は、その時間と体力を取り戻す方法を、ひとつの問いに沿って考える教科書です。
特別な才能の話では、ありません
むしろ逆です。
ITが苦手な70代のスタッフがいて、書類の山に埋もれていて、
「新しいことを始める余裕なんてない」という、ごく普通の介護事業所の話です。
やったことは、たったひとつ。
看護や医療、障害福祉の事業所の方は、「介護」を「うちの仕事」に、「ケアプラン」を「うちの計画書」に、「ケアマネ」を「計画をつくる担当者(相談支援専門員など)」に、「施設」を「うちのステーション・事業所・病棟」に置き換えて読んでみてください。それで通じるように書いたつもりです。
では、この本は何を問うのか。そこから始めます。
この本の問い
この本は、ひとつの問いだけを追いかけます。
成長・進化する施設を、
どう創り上げるのか。
介護の会社の経営に関わってから、私は、自社の事業所と、道具の導入をお手伝いした事業所を合わせて、うまくいく施設とうまくいかない施設を、たくさん見てきました。
規模も、地域も、サービスの種類も違います。それでも、うまくいっている施設には、驚くほど同じことが起きていました。
その共通項を、この本は2つに分けてお話しします。
ひとつは、昔からある「あたりまえ」
およそ百年前、ナポレオン・ヒルという人が、成功した人たちを長い年月をかけて訪ね歩き、その共通項をまとめました。
はっきりした目標を持つこと。知識を借りること。仲間を持つこと。恐れを越えること。決めて動くこと。やめないこと。
私が介護の現場で見てきたことも、驚くほどこれと重なります。
目標をはっきりさせる。怖さと付き合う。小さく始める。知っている人から学ぶ。仲間と進む。続ける。
この本では、この順番に意味があります。前の章の答えが、次の章の問いになるように並べています。
人・もの・金・情報が揃えば、事業は前に進む。これも、昔から言われてきたことです。
読めば「そりゃそうだ」と思うことばかりです。
でも、あたりまえだからこそ、外れません。 何十年も前から、成功した人たちが同じことを言い続けてきた原則です。
もうひとつは、いまの時代にしかない「一点」
ただし、昔と決定的に違うことがひとつだけあります。
その4つのうちの、情報と、それを扱う技術です。
とくにAIは、ここ数年で「書く」「まとめる」「転記する」といった実行までできるようになりました。
これを、この本ではAXと呼びます。
AXの話は、世の中にあふれています。
でも、介護・看護・医療・障害福祉の現場の言葉で、しかも昔からの原則とつなげて語られたものは、ほとんどありません。
この本の読み方
先に、答えを一行でお見せしておきます。
いまの時代の道具で、
毎日ひとつずつ。
その骨組みは、3行です。
この3行が、なぜ答えになるのか。それを1章ずつ確かめていきます。
各章の最後に、その章で問いがどこまで絞られたかを1行で書いています。
手元に紙を1枚置いて、その1行に、あなたの施設のことで答えを書きながら読んでみてください。第1部の6つの章は、読み終えたときに明日やることが1つ紙の上に残るように並べています。
時間のない経営者の方は、先に各章のまとめと「今日やれること」の囲みだけを拾い読みしても、筋は追えるようにしてあります。
読み終わるころ、最初の問いに、あなた自身の答えが出ていることを願っています。
※本書の初版は『スローDX成功法』という題でした。第2版から、AX(AIが実行する段階)の話を加えて、今の題に改めています。
著者が通った道
この3行は、机の上で考えたものではありません。
私自身が、赤字の会社の中で、手探りでたどり着いたものです。少しだけ、その話をさせてください。
5年前、私は、潰れかけた介護事業所の中にいました。
義母から渡された、赤字の会社
2018年、29歳のとき、妻と結婚しました。妻の家族は、介護事業を営む会社「陽気」を長年経営しており、義母が代表を務めていました。結婚を機に、私もその世界に足を踏み入れることになります。
2020年、私は株式会社ライフシフトを立ち上げました。介護の現場をテクノロジーで支えたい。そんな想いからのスタートでした。
ところが、ちょうどその頃です。
そこに、コロナが重なった。
介護の世界に入って間もなく、目の前にあったのは赤字の会社だった、ということです。
正直、強烈な危機感を覚えました。
何が起きているのかも、何から手をつければいいのかも、分かりませんでした。
5年で変わったもの
結論から書きます。
その会社は、いま黒字です。
魔法のような一手があったわけではありません。
やったことは、地味です。
数字を直視した日に、道が開けた
現実から目をそらさない。ただし、一度に全部は見ない。
乗り越えられた理由は、突き詰めるとそれだけでした。
どんぶり勘定をやめました。
何にいくらかかっているのか。どの事業所が、どの月に、いくら足りていないのか。
見たくない数字ほど、先に見る。ただし、1日に1つずつ。冒頭の「1日1つ」は、ここから生まれました。
売上より先に、伸びていたもの
売上は、1億円から3億円になりました。
ただ、私が本当に変わったと思っているのは、売上の桁ではありません。
赤字が黒字になり、利益が残る形になりました。
残った利益で、スタッフの給与を上げられるようになった。
すると、人が辞めなくなりました。定着率が上がったのです。
長く働けるから、資格を取る人が増えた。
資格を持った人が増えれば、ケアの質が上がる。
ケアの質が上がれば、ご家族やケアマネさんからの信頼が増して、空床が減っていく。
そして満床に近づけば、また利益が残る。
同じように、借入や設備の計画も、勘ではなく数字で立てられるようになりました。
銀行との対話も、お願いする側から、計画を説明する側に変わりました。
売上は、その結果として付いてきただけです。
先に伸びていたのは、いつも「経営の体力」のほうでした。
そして令和6年、32期目の決算を迎え、妻が代表を引き継ぎました。成長・進化する介護施設を、自分たちの手でつくれている。そう実感できる今があります。
この経験の中で、繰り返し効いていたことを並べ直したのが、第1部の6つの原則です。
そして、私たちがいちばん大きく手を打てたのが、情報でした。それが第2部です。
スローの意味
急がなくて大丈夫です。
ゆっくりでいい。
ただ、この本の「スロー」は、のんびりやることではありません。怖さを、見られる大きさに割ることです。くわしくは第2章でお話しします。
サステナブルであり続けるために。
あなたが思い描く理想の施設、理想の会社。
その実現に向けて、この本を通して一緒に歩んでいけたら嬉しいです。
さあ、はじめましょう。